概要 |
1.知床世界遺産センター(北海道斜里郡斜里町)
知床世界遺産センターを訪問し、「知床世界自然遺産における地域と協働した自然環境保全」について調査を行った。
(1)知床世界自然遺産における地域と協働した自然環境保全について |
①知床世界自然遺産について |
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1964年に国立公園指定。2005年7月に世界自然遺産に登録。
登録面積は陸域48,700ha、海域22,400haの合計71,100ha。
世界自然遺産の価値としては「北半球最南端の季節海氷(流氷)域」、「海での爆発的な生物学的生産性」、「海と陸の生態系の相互関係」などの生態系、「シマフクロウ等多くの希少種の生息域」、「サケ科魚類にとって世界的に重要」、「トドやクジラ等多くの海棲哺乳類にとって重要な海域」、「海鳥にとって国際的に希少な海域」などの生物多様性があり、国際的には、知床は「海の世界自然遺産」と認識されている。 |
②知床世界自然遺産地域の管理体制 |
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管理者は、環境省、林野庁、北海道であるが、地域との連絡調整・合意形成の場である「地域連絡会議」と、科学的知見に基づく順応的監理を行う「科学委員会」による管理体制をとっている。
「地域連絡会議」は、世界遺産管理組織(環境省、林野庁、北海道)、地元自治体(斜里町、羅臼町)、地元漁協、地元地域協議会(ウトロ、羅臼町)、知床ガイド協議会、知床エコツーリズム推進協議会、知床財団で構成しており、遺産地域を適正に管理するため、関係行政機関と地元関係団体が密接に連絡、調整を行っている。
「科学委員会」は専門家により組織され、関係行政機関、地元自治体、関係団体と連携し、モニタリング・調査研究を実施し、モニタリングの結果を、遺産地域の管理に柔軟に反映している。 |
③地域との合意形成について(知床五湖の事例) |
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知床世界遺産センター調査状況 知床五湖の利用適正化について、静寂な利用環境の喪失や利用集中による植生の荒廃、ヒグマの出没による遊歩道の閉鎖、生態の撹乱の恐れ等の課題があったが、「知床五湖のあり方協議会」を発足させ、多様な主体による利用のあり方を議論した。その結果、各制限設定における対立はあったが、客観的視点からのモニタリング結果・評価から順応的に対応を図ることにより、未来の協働型管理に向けて新しいルールが確定していった。具体的には、電気柵で守られた高架木道の整備により、不特定多数の安全で安定した利用の場を提供するとともに、地上遊歩道においては一定のルールや利用制限により、植物の荒廃やヒグマとの不適切な遭遇を防止するための利用調整地区制度を設け、不安定な観光地から安定的な観光地へ、また、利用による環境負荷の最小化ができるようになった。課題に対しては、順応的な対応を常に意識し、改善・改良を続ける必要がある。そのためにも、課題解決のアイディアの声を生かしていく、企画調整力が管理者側(行政)には必要とされている。
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2.公益財団法人 知床財団(北海道斜里郡斜里町:知床自然センター)
(公財)知床財団を訪問し、「先進的な野生生物の管理」、「自然環境の保護と利用のバランスの取れた取組」について調査を行った。
(1)知床財団の概要 |
①組織概要 |
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[設立] 1988年(昭和63年)9月23日
[設立者] 斜里町、羅臼町
[基本財産] 4,500万円
[目的] 知床国立公園の自然環境に関する調査・研究、自然保護思想の普及啓もう等の事業を行い、もっと広く国民の自然保護思想の高揚と自然利用の適正化に寄与する。
[事業] 上記目的を達成するため、次の事業を行う。
(1)知床の野生動植物の調査・研究
(2)自然保護思想の普及啓もう
(3)自然保護に関する諸団体との提携
(4)自然環境の保全管理、及び、公園施設等の管理運営受託業務
(5)その他目的を達成するために必要な事業
[職員] 約40人体制(季節により変動あり) |
(2)先進的な野生生物の管理 |
①エゾシカについて |
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エゾシカについては、知床岬をはじめとする越冬地での植生保護柵の設置や季節移動調査、越冬数調査と自然死亡個体調査に加え、シカと植生の相互関係のモニターなどの調査を行い、直接的なシカの個体数削減で植生を保全することなどの環境省による「知床半島エゾシカ保護管理計画」及び斜里町・羅臼町の行う対策や地域の独自の取組に対して協力連携して保護監理措置を進めている。 |
②ヒグマについて |
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ヒグマについては、GPS等による行動追跡調査を行い、ヒグマの生態に関するデータの収集・分析を進めつつ、問題をおこす個体の行動の検証や忌避学習付け効果の評価など、ヒグマの個体群を適正に維持するため、被害を防ぎつつ個体群を保全できる捕獲数の設定など管理と保護の合意点を求めていっている。 |
(3)自然環境の保護と利用のバランスの取れた取組について |
①国立公園の保護管理の問題点 |
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国立公園の保護管理を困難としている問題の一つは一元的な管理体制の欠如があり、様々な法律が、異なる目的や意思をもって公園管理に関与しているため、国立公園本来の目的に添った統一的なビジョンに基づく運営が困難となる。
また、自然公園法は各種開発行為については一定の制限を課すことが可能であるが、利用の調整については広範囲な運用はいまだに困難であり、全国一律の法制度だけでは、公園毎の実情に応じた管理運営に対応できないという問題もある。
さらに、現地における各種業務に直接的に当たる組織と人が大きく不足しており、予算的にも先進国としては極めて少い。 |
②知床財団の取組 |
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一元的な管理体制の欠如については、知床を共有する斜里・羅臼両町が設立した財団として、両町のニーズを汲み上げつつ、財団がもつ専門的な知見を反映させ、少なくとも地方自治体レベルでは統一的な意志決定や管理運営が行われる状態の実現を目指している。
また、公園管理の現場においては、専門的な知識・技術を有する財団のスタッフが、実働部隊として関係機関・団体などと連携しながら公園の運営や保護管理を担っていくとともに、充実した利用者サービスの提供を目指している。
さらに財団が蓄積してきたノウハウなどを用いて、知床ならではの体験の享受や原生自然を保全していくための新たな利用のあり方やそのシステムを提案しするなど、知床の現場で創意工夫されてきた試みを、公的な管理システムへと進化させ、定着させることを目指している。 |
3.釧路港(北海道釧路市)
釧路市を訪問し、「釧路港(西港区)における港湾施設整備状況」について調査を行った。
(1)釧路港概要 |
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東北海道の物流拠点港湾として発展し、北米、極東ロシア、東・東南アジア、豪州などから、当地域の主要産業である製紙、農業などに要する原材料等を大量に輸入し、これら産業の生産品を広く全国に移出し、コンテナ船やRORO船など、月約80便の定期船が就航している。また、国際戦略港湾政策によるバルク貨物増大に対応するための外内貿物流基盤の充実など、港湾ネットワークの向上を目指しており、釧路港は国際物流拠点港湾として集中的に港湾整備を図り、国際競争力を確保する重点港湾に位置づけられている。
また、釧路港は東港区と西港区に分かれており、東港区は、日本有数の漁業基地が形成されるとともに、様々な地域イベント等が開催される賑わいの拠点である。西港区は、基幹産業に関連するバルクやユニットロード貨物が取扱われる港湾物流の拠点となっており、トウモロコシ等の飼料原料を取扱う第2埠頭において、「国際バルク戦略港湾」としての新たな施設を展開している。 |
(2)国際コンテナターミナル(西港区) |
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釧路港の調査状況 平成21年9月に第3埠頭にガントリークレーンを主要設備とした国際コンテナターミナルを整備したことにより、荷役効率が向上するとともに、コンテナ貨物船舶大型化とコンテナ貨物量増加への対応が可能となった。
さらに、現在、大型船に対応するため、第2埠頭の荷役バースについて増設整備中であり、最終的には-16mの荷役バースを平成29年度供用開始予定である。
また、今年3月に「臨海部産業エリア形成促進港」に認定され、民間によるターミナルの一体的な管理運営体制の構築を進めている。
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以上のほか、知床国立公園、釧路東IC付近において「高規格道路(釧路外環状道路)の整備状況」、大塚食品釧路工場において「大手食品企業が取り組む高度な自主衛生管理」、釧路湿原野生生物保護センターにおいて「自然再生及び野生生物の保護」について調査を行った。
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