新聞報道

イチゴ炭疽病防止など期待 流水育苗ポット台を開発

2009年(平成21年)4月19日

本県産イチゴは、栽培面積294ha、出荷量1万300t、産出額88億円(2007年度)で、重要農産品目の一つである。県では農政ビジョン後期計画において、さらなる面積拡大を目指すとともに、新品種導入により、産地を育成、強化することとしている。

しかし、現在作付けされている品種「さちのか」や新品種「こいのか」は、イチゴの苗や株を枯らす重要病害である炭疽(たんそ)病に弱く、栽培上の最も大きな課題となっている。炭疽病は育苗期だけでなく、ハウスへ植えつけた後も発病し致命的な被害を及ぼす病気で、水やりや雨滴によって飛散し次々と伝染する。

このため、伝染や発病を防ぐポイントは、①育苗中、夕方の長時間の水やりによる茎葉のぬれ時間を長くしない②苗を腰ほどの高さの育苗用ベンチ上で管理したり、上空に屋根を設置することで、苗に雨や水滴がかからないようにする-などである。

そこで、炭疽病が広がりやすい5月から9月上旬までの育苗期間の病気拡大を防止するとともに、育苗作業の短縮を図るため、県科学技術振興局の農林技術開発センターでは、県内企業と「流水育苗ポット台」の開発に取り組んだ。

開発した「流水育苗ポット台」は薄いプラスチックを1辺50㎝の方形に成型した形状をしている。1トレーに12個のポケットを設け、そこに育苗ポットを設置し、複数のトレーを連結して利用する。おのおののポットに通じる水路を伝って水を供給するため、病気の要因となる水のはね返りや茎葉のぬれがない。

病気拡大の防止効果を確認するため、炭疽病にかかった苗と健全苗を並べて育苗し、従来のスプリンクラーで水やりをした場合と流水育苗ポット台を使って水やりをした場合の発病率を比較したところ、6月中旬から9月中旬までの約3ヵ月間、1度も薬剤散布することなく育苗を行っても、病気拡大を防止できることが認められた。さらにこの流水育苗ポット台は炭疽病の発生防止に加え、水やり作業の短縮、薬剤散布回数の削減、労働時間の短縮効果も期待される。

当センターでは、「流水育苗ポット台」の実用化に向けて、試作品を作製し、水の流れを良くするための形状や材質の改良を重ねており、これらの技術ノウハウを県内企業に移転して商品化することを予定している。今後、育苗作業の軽減、労働時間削減に向けた調査を行い、多くの農家が使用できるよう、その実用性を高めていきたいと考えている。

(長崎県農林技術開発センター 干拓営農研究部門 専門研究員 片岡正登)