●会見内容●
諫早湾干拓事業に関する質問状の回答について
○知事
諫早湾干拓事業に関する質問状を、去る1月13日付けで内閣総理大臣あて提出しておりましたが、本日、文書をもって回答をいただきました。
お手元に配付させていただいているとおりであります。まず、この回答を見せていただいて、去る1月23日に農林水産大臣が(本県に)お見えになられて、意見交換の場が持たれ、ご説明等をいただいたわけでありますが、それ以上に踏み込んだ回答はほとんどいただけなかったという状況であります。
大変残念であり、失望の念を強くしております。
特に、表紙に書いてございますが、回答の中には、「私も何回か現地を訪れたことがあり、今般の高裁判決を重く受け止め、長年にわたる争いに終止符を打ち、解決の方向性を早急に提示することが内閣の責務である」と、こう考えられたということであります。高裁判決を重く受け止められて、そして争いに終止符を打つために、なぜ今回、地元の住民の方々、農業者、漁業者の方々の大きな不安、懸念を尊重していただくことなく、一方的に解決の方向性についてご決断がなされたのかということが、非常に疑問に感じているところであります。
後ほど、個々の質問の内容についてはご説明をさせていただきますが、その次の段落にありますように、防災、営農、漁業への影響も含めて、不利益を強いることのないようにと、また、不安や懸念に真摯にお答えさせていただきますという言葉は結んでありますが、まさに真摯にお応えしていただいたというような内容ではないのではないかと感じております。
ほとんどの質問項目について、「現在実施している環境アセスメントの結果を踏まえて判断をする、検討をする」という内容であり、そしてまた、「具体的な開門の方法、時期、期間等について、関係者と話し合いをするんだ」ということで説明がなされておりますが、もともと私どもの最大の懸念は、今回の福岡高裁判決が「3年間の猶予期間を設けて、5年間常時開門する」ということであったわけであります。この常時開門という判決結果をどう受け止めておられるのか。まさに、話し合いをすれば、その常時開門でなくなる可能性があるのかというようなご回答になっております。
以下、具体的な回答に沿ってご説明をします。
23項目でありましたので、簡単に一つずつ触れさせていただきたいと思います。
まず、潮受堤防の締切りと漁業被害との因果関係について、どう考えておられるのか。これまでは一貫して因果関係はないんだというお立場であったのが、今回、因果関係を認めるという立場に立たれたわけでありますが、その論拠はどんなものかという問いでありました。しかしながら、この回答には、「この漁獲量の減少要因としてはさまざまな要因があると指摘されているものの、いまだ科学的、客観的に十分な解明がなされていない」と、こうされております。
そういった中で、この潮受堤防の締切りと漁業被害との因果関係については、判決で指摘されているとおり、「潮受堤防締切りによる潮流の流速変化や、湾奥部の海域の消滅という事実がある。これが生育環境に影響を及ぼした複数の要因の一つである可能性は否定できない」と、こうされております。
これは少し説明足らずの部分があるかと思うんですが、実は、今回の福岡高裁判決でも、有明海全体の漁獲量の減少要因と、この諫早湾の潮受堤防の締切りとの因果関係、これは認められてないんです。認められているのは、ごく地域が限られた、諫早湾の湾口部並びにその周辺海域において、例えば流速の変化が一部認められる。これは最初からそういう考え方が示されており、それに基づいて漁業影響補償が行われてきた経過があります。したがって、ここの潮流の流速変化等は、これは地域が限定されておりまして、今回の判決でも、全域にわたってこうした影響が見られているというのは否定されているところであります。
そういうことを考えますと、いわゆる開門することによって生じてくる新たな被害、そして、開門することによって流速の変化が期待でき、漁業資源の回復に結びつく可能性、これは、本来は比較考慮して判断なされるべきだろうと思いますが、そうした比較考慮がなされていない。そのことをそのまま受け止めたご回答になっているわけでありまして、私どもの疑問に具体的な形でお答えいただいている内容ではないと考えております。
こうした部分については当初から想定済みの課題であって、既に漁業権の影響補償が行われているという事実をもう一度踏まえて、適正なる回答がいただきたかったというのが今の偽らざる心情であります。
なお、平成17年には最高裁までいって議論が交わされ、因果関係はないとの結論が得られているわけでありますが、なぜこういう部分的な現象を踏まえて、比較考慮されることもなく開門という結論が得られたのか理解できないところであります。
2点目の、防災機能が限定的と福岡高裁判決は評価をしておりますが、これをどう考えておられるのかという見解をお尋ねしたのでありますが、具体的な回答はいただけておりません。洪水や高潮などの防止に一定の役割を果たしているというのは認められていますが、防災上の悪影響が生じないよう開門の方法、時期、期間について話し合いを行うと、そしてまた、必要な対策を講じていくということで、まさに冒頭申し上げたように、開門の方法、時期、期間、これが選択の余地がある判決内容であるのかどうか、そこはやはり、はなはだ疑問であると言わざるを得ません。そういう前提の中で上訴が放棄されたということについては、いまだ理解できない状況であります。
当然ながら生命・財産の安全確保のためには、理論的にどうあるべきか、当然ながら想定をした上で具体的な検討を進めて判断されるべき課題であったのではないかと考えているところでありまして、地元としては到底、納得をいただけるような状況にはないと考えております。
それから、防災機能への支障でありますが、これは、「試算内容等については農林水産省にお尋ねいただきたい」という回答であります。「これから政府一体となって万全の事前対策を講じることにより、長崎県関係者の理解と協力が得られるよう誠意をもって取り組んでいく考えです」という考え方をお示しいただいております。
私どもは多くの分野にわたる内容について質問をさせていただきましたので、回答に当たっては、政府一体となってご検討された上でご回答をいただきたいという要請をしていましたが、具体的に何をどうやっていけば防災機能が確保されるのか、そういった具体的な検討の状況について、本当に政府一体となってご回答をいただいたとは思えない内容でありまして、大変残念であります。
それから、(5番目の)気象予報と調整池の水位管理、これについても全く回答もいただいていないところであります。人命、財産に被害が生じることがあってはならない、そのために開門の方法、時期、期間について関係者と話し合うと、必要となる対策を講じると、まさにこうした回答の繰り返しが、これ以降の質問にも続いてくるわけであります。
6番目、小潮時の防災機能確保についてですが、諫早湾は小潮時に最低潮位がゼロメートルであります。その背後地は600ヘクタールのゼロメートル以下の低平地が存在し、大雨が降ると排水ができない期間が相当長期間にわたります。その際に、どういう排水門の管理をやろうとしているのかという若干技術的な現場に即した質問もさせていただいておりますが、これについても全く回答をいただいていないということであります。
それから7番目、開門による堤防施設等への影響。これは、いわゆる構造設計が調整池水位をマイナス1.2メートルからプラス2.2メートルまでとして設計されており、常時開門されるということになりますとプラス2.5メートルからマイナス2.9メートルまで外潮位が変動しますので、これに連動して相当大幅な調整池内の水位変動があるわけであります。それにこの潮受堤防の構造自体が耐え得るのかどうかという問いを設けたところでありますが、これについても先ほどと全く同じような状況、回答であります。地元の危惧の念に対してお答えいただいていないということでありますが、まさにこの程度の検討で開門が選択されたという事実が示されているものと考えております。
次(8番目)もそのような問題でありますが、開門に対する排水門の構造上の問題。これは、いわゆる調整池側から海域に水を流すといった一方通行の前提で設計がなされており、これが反対に海側から調整池に潮水が入ってくるということになると、これもまた排水門の構造上、問題が生じるのではないかというお尋ねでありましたが、これはまさに「海水導入による施設の安定性、安全性への影響を評価した上で必要となる対策を講じていく」と、こうされております。このことは全く評価しないで開放を決められたという回答ではなかろうかと思っております。まさに重大な判断がなされる前に、こういった点については当然ながら精査されておくべきものであると考えているところであります。
9番目、農業用水の確保でありますが、これについても「代替方策を検討し、開門に伴う農業用水利用への影響に対して必要となる対策を講じていく」と、こう抽象的な回答はいただいておりますが、何ら具体的な回答はいただいておりません。
代替水源の確保については繰り返し、繰り返し、現実的には難しいということを訴えてきたにもかかわらず、いまだに具体的な検討がなされていないということに関しては大変残念であります。
次の10番目、塩害や潮風害。これについても、現在、科学的、客観的データに基づき検討を行っているということであります。必要となる対策等については、これからまた検討されるということのようでありますが、これも具体的な回答をいただいておりません。(11番目の)背後地の営農への影響についてのお尋ねについても同じであります。
農業用水利用、塩害等が発生する可能性があるということには触れられておりますが、先ほどの答えの繰り返しであります。
それから、12番目の「漁業被害を生ずる危険性」についてお尋ねをしております。これについても、「短期開門調査に伴う漁業被害に対して行った補償内容については、農林水産省にお尋ねいただきたい」と。「漁業生産への影響については、現在実施している環境アセスにおいて検討をしている」ということでありまして、まさに開門をすると確実に諫早湾内、並びに湾口部を含めて漁業被害が発生すると私どもは訴えてきて、これまでの短期開門調査の時もそういう状況にあったわけでありますが、こういった回答をいただいているということは、まさに被害が発生するのか、しないのか、未検討のまま開門を受け入れたということになるものと考えざるを得ないわけであります。
13番目、「水質変化と赤潮の発生の危険性」、これについても「水質に変化が生じること」というのは認めていますが、これも「現在実施中の環境アセスで検討をしている」という話であります。
それから、「開門による新たな生態系の破壊について」の質問、これは大変不思議なことに、これまでの裁判の中では、「ムツゴロウ裁判」といった生態系に対する影響が大きく取りざたされてきたわけでありますが、今回の訴訟に当たっては、一切そのことに触れられておりません。前回の短期開門調査の時にも、調整池内の淡水性の魚介類が10トンも大量へい死したというような事実があるわけでありまして、「これについての悪影響が生じないよう必要となる対策を講じていく」とされておりますが、一体どういった対策を講じると悪影響が生じないようになるのか、全く具体的な回答をいただいていないということであります。
それから、これは非常に大きな問題ではないかと考えておりますのが、15番目の「漁業影響補償が既に行われているということについてどう考えられるのか」。
これは控訴審判決では、国は漁協と影響補償契約を結んだと。したがって、その構成員である各漁業者には漁業行使権があるわけでありますが、その漁業行使権まで制約を与えるものではないと。なぜならば、各漁業者は契約の当事者として名前が連なってないということから、今回妨害排除ということでこの開門の請求を認めたところでありますが、これに対してどう考えておられるのか。そしてまた、具体的な損害賠償の請求があれば賠償の対象となり得ると考えておられるのかどうかという質問をいたしました。
そうしたところ、ご覧いただいておわかりのとおり、「各組合員は各漁協の組合長・理事に漁業補償契約締結等の委任行為を行った上で諫早湾干拓事業に同意し、以後、求償を行わない旨の契約を締結した事実があり、契約は有効であるものと考えています。このため漁業者からの損害賠償請求には応じるつもりはありません」という回答がなされております。
このことは大きな矛盾であると思っております。まさに個々の組合員が組合長・理事に対して委任をしたと。その委任に基づいて組合長は漁業補償契約を締結した。この漁業補償契約の中にはさまざまな漁業権、並びに漁業行使権も含まれておりますし、なお、今後求償を一切行わないという条文も入っております。仮にこういった立場に立つのであれば、今回の判決の根拠自体がなくなってくるものと私どもは考えざるを得ないと思っておりまして、漁業行使権も制約を受けるということであれば、妨害を排除する権利は認められないのではないかと。したがって、求償権もない。となれば、なぜ上告されなかったのか。これはよく勉強しないと隘路があるのかもしれませんが、理論的にその経緯が理解できません。仮にこういう状況を主張されるのであれば、最大の事実誤認に基づく判決であると指摘せざるを得ないのではないかと我々は考えているところであります。これについては、また専門家のご意見等もお尋ねしてみる必要があると思っております。
それから、16番目、「開門によって漁業被害が解消される可能性が本当にあるのか、これについてどう考えられるのか」という質問をいたしておりました。
これについては、「諫早湾、有明海の環境に対して負の影響を与える可能性がある一方、海水と調整池の水が混合することなどにより漁場環境が改善する、いわゆる正の評価ができる可能性がある」と両方の可能性に触れられております。しかしながら、その影響については現在環境アセスをやっているということでありますが、環境アセスをやっているといいながら、なぜ一方的なプラスの要素だけ評価して開門を受け入れることになったのか。これは冒頭に申し上げたように、正の影響と負の影響、これは必ずあるわけでありまして、そこを科学的に、定量的に比較考慮をして判断をすべきであると我々は申し上げてきたのでありますが、その結論も得ないまま一方的に上訴が放棄されたということの回答であります。
それから、17番目は、「有明海全体の環境異変との因果関係、これはノリの酸処理剤等が環境に大きく影響しているのではないか」というようなお尋ねをしております。「そのほかにも築後大堰、熊本新港、三池炭坑の海底陥没、さまざまな要因があるのではないか」と。これはまさに諫早湾干拓事業検討委員会でも、「そうした複合的な要因がある」と、こう指摘されていたところでありますが、これについての具体的な回答はございませんでした。「(酸処理剤の)適正使用について指導を行っている」というような回答でありまして、非常に残念であります。どこまでこれまでの経緯、我々の主張を含めて真摯に対応していただいているのか、はなはだ疑問であると言わざるを得ません。
そして、(18番目の)「対策費用」についてでありますが、これについても「現在実施している環境アセスメントにおいて検討をしている」ということでありますが、判決の内容はご承知のとおり、「常時開放することによって過大な費用を要することになるなどの事実は認められない」というような判決結果でありました。回答の内容はこの判決内容と矛盾することになると考えております。
それから、(19番目の)「裁判において国の具体的な主張、立証が足りなかったのではないかと、もっと地元の関係者の証言、証拠等を提供、提出する必要があったのではないか」ということもお尋ねをしておりましたが、これについては「因果関係、地域の防災や営農の実態などについて主張を尽くしてきた」と、こう回答をされております。主張を尽くしてこられたのであれば、なぜその主張を引き続き継続していかないのか、なぜ大幅な方針の転換をするに至ったのか、全くその経緯、根拠が明確ではありません。
それから、20番目の上訴放棄の理由と国の責務について、いわゆる安全・安心を守る重い責務があるのに、「地元に一遍の説明もなく上訴を放棄するに至った理由を示してください」と、こう書いていたところでありましたが、「真摯にお応えしていくことが重要である」と述べられてはいるものの、なぜそうした結論に至ったのかということは、具体的には何ら説明されておりません。「政府一体となって万全の事前対策を講じる」と、こう述べられておりますが、今回の回答内容は、決して政府一体となって真摯にお答えいただいた内容ではないと評価せざるを得ないと考えております。
それから、(21番目に)環境アセスメントとの関係について質問をしております。「環境アセスで常時開門が適当でないとなった場合には、明らかに矛盾することになりますが、その矛盾をどうやって解消しようとしているのか」というお尋ねをしましたが、「今、行っている環境アセスは、全面開放、段階的な開放、そして管理開門、この3つの方法を念頭に検討している」という回答であります。これは、まさに開門を前提とした環境アセスが行われているという疑念を抱かざるを得ないと考えております。
それから、(22番目の)地元の同意については、これまで地元の同意、理解を得ることを前提に進めていくんだというような表明がたびたび、いろいろな場で明らかにされてきたところでありますが、そこまでのはっきりとした回答ではなく、「理解と協力が得られるよう誠意を持って取り組んでいく」という回答であります。
最後、23番目(影響に対する具体的な対策について)でありますが、「現在、これも対策費用等を含めてアセスにおいて検討をしている」という回答にとどまっております。
以上、内容について簡単に触れさせていただきましたが、まさに23日の農林水産大臣のご発言内容から踏み込んだような回答はほとんどいただいてないという状況であり、本当に残念でなりません。これからどう対応していくかということについては、具体的な回答を求めているにもかかわらず、回答自体をいただいてない質問が多数にわたっております。そしてまた、回答も、既にご覧いただいたように、「環境アセスの結果を踏まえて、あるいは開門の方法、時期、期間等について関係者等の話し合いを行いながら」というような回答に終始しておりまして、何ら具体的な検討はなされてないという状況でありますので、再度、どう対応していくべきかということについては、また、地元市並びに関係団体の皆様方とも相談をしながら検討をしていく必要があると考えているところであります。
以上、私の方から報告をさせていただきます。
○記者(長崎新聞社) 確認ですが、本日文書で回答を受けたというふうにおっしゃっていますが、文書は28日付、これは郵送日だと思うんですが、今日届いたんですか。
○知事 今日、9時半ぐらいに届いたそうです。
○記者(長崎新聞社) 郵送で。
○知事 はい。
○記者(長崎新聞社) 文書をその日にご覧になったということですか。
○知事 はい。
○記者(長崎新聞社) 具体的な回答はないということですが、どこにもこの前(1月23日の農林水産大臣との意見交換会時)の回答と少しでも新たな事実とか、説明とかというのは全くないんですか。
○知事 先ほど申し上げたように、いわゆる漁業補償についての考え方について、これは前回、具体的なやりとりはなかったと思うんですが、国の姿勢が示されていると考えております。いわゆる損害賠償を改めて行う考え方があるのかという説明を求めていたのでありますが、それについては賠償の対象とは考えてないと、こう回答が得られておりますので、仮にこういうお考えであれば、なぜ、本当に上訴されなかったのかという根拠がわからないわけであります。
○記者(時事通信社) つまり、これは開門した場合に漁業者に被害が発生した場合は、被害の補償を払わないというふうに国が言っていると、そういう感じですか。
○知事
そうではないと思います。前回の説明、意見交換会の場では、仮に被害が生じるようなことがあれば、補償も検討しないといけないでしょうといったような大臣のご発言はあったと思いますので、この回答はまさに、お読みいただくとおわかりのとおり、先の、この諫早湾干拓事業を推進するに当たっての地元漁協との漁業補償契約、これに対する国の考え方が示されたと理解しております。
私どもはここの考え方が、漁業補償を行って、その契約の中で新たな補償を求めないというような明確な条文が盛り込まれているわけでありますので、そうであれば、こういった漁業行使権に基づく妨害排除請求権(開門の請求権)そのものが生じてこないと思っているのでありますが、片や補償契約は有効であって、組合員に効力が及ぶため損害賠償には応じないということであれば、そういう国のお立場を明確にされたのかなと思います。ただ、そうであればなぜ開門を受け入れられたのかという根拠がなくなるわけでありますので、全く自己矛盾を起こすということになるのではないかなと思います。
○記者(長崎新聞社) 原告適格がないということですよね。
○知事
そこにつながってくる可能性が高いのではないかと思うんですね。
ちなみに、今、長崎地裁で行われている一次訴訟では、まさにこの損害賠償が求められておりますので、こういったスタンスであれば、当然ながら、一次訴訟は最後まで継続していかれるお立場なのかなと思っております。
○記者(長崎新聞社) 回答を受け取っていかがですか。この前の農水大臣の意見交換会では具体的なものはなかったんですけれども、(今回も)想像以上にないということですか。
○知事 ないですね。前回の意見交換会の場では、農林水産省としては上告も選択肢として検討していたが、総理の政治判断でこういった結論が得られたんだという回答でありましたので、何らか、その辺の政治判断の考え方なり、具体的な根拠なり、対策なり考えていただいていることについてご回答がいただけるものと期待しておりましたが、前回の意見交換の場以上の具体的な回答が、得られていないということは非常に残念であり、失望をしたところであります。
○記者(NHK) 項目の22のところで、県の方では、「地元の同意を得ることなしに行うことはないということについて明言をしてほしい」というふうに求めていたと思うんですが、今回は、それについての明言は一切なかったんですが、それについての受け止めは。
○知事
こういった点については、再度、きちんともう一度お尋ねするかどうかということも考えなければいけないと思っております。
ただ、理解と協力が得られるよう誠意を持って取り組んでいく考えであるという姿勢はお示しいただいておりますので。ただ、これが現実の形としてそういったご努力がいただけるのかどうか、現時点でこういった回答をいただいている状況を踏まえますと、甚だ疑問なしとしないところではなかろうかと思っております。
ただ、一方的に地元の意向等を無視する形で開門等が行われることがあっては絶対にならないと考えておりますので、そういった主張は繰り返ししていかなければいけないと思っております。
○記者(読売新聞社) 先ほど、具体的な回答があったのは補償の部分だけ、損害賠償の部分だけという話でしたけど、ほかの部分で少しでも回答が得られていると感じる部分はありますか。
○知事 ありますか。
○農林部長 いいえ、ありません。具体性がないというのは、大臣の時と全く変わらない。
○記者(共同通信社) 国の方がこの回答を今回県に提出することと同時に、次回、また改めて何か話し合いの場を持ちましょうとか、そういう働きかけというのは向こうからあっているんでしょうか。
○知事 今のところ、あっておりません。
○記者(NCC) その回答を受けて、今後の協議に応じるお考えというのはいかがでしょうか。
○知事 どういった協議なのかという内容によりけりだろうと思います。
○記者(朝日新聞社) 具体的には、どういう協議なら応じるお考えですか。
○知事 改めて私どもの質問に対して具体的にお答えいただくということであればお会いする意味はあるんだろうと思います。
○記者(朝日新聞社) あくまで同じような質問に答えるかどうかというところを軸に国と話をしたいということですか。
○知事
これは、いわゆる地元の住民の方々、農業者、漁業者の方々が一番不安に思って、これまでも懸念を持って繰り返し繰り返し訴えてきた内容ばかりなのであります。
こういった内容について具体的な回答をいただいて不安を解消していただく、心配な部分を一つずつつぶしていただく、そういうことがない限りにおいては、一切不安は消えないわけでありますので、協議の場に出ていくということはあり得ないと思っております。
○記者(時事通信社) そうなると、この回答書も5月の環境アセスの結果を受けて説明させていただきたいというふうに言っているんですが、5月の環境アセスの素案がまとまるまでは向こうとは応じられないということになるんですか。
○知事 それは向こうの動きでしょう。どうなさるのか。
○記者(読売新聞社) 逆に、「環境アセスで検討中」ということが何回も出てきますけれども、何でこういう回答になったんだと知事は考えられますか。
○知事 これまでもさまざまな課題があるということは指摘をし、お伝えをしてきたわけでありますが、そういった懸念について、個々具体的な方策を講じるためには、環境アセスを含めてもろもろの調査、研究が必要であると思っているのでありますが、それは相当時間がかかる。だから、私どもは開門について判断をされる場合には環境アセスを踏まえて、科学的、客観的な立場で慎重に検討をしてくださいと、こう申し上げてきたわけでありますが、全くそういう検討もされずに結論だけ先に出されたということでありまして、これは、まさに我々が一番懸念したことがそのまま今回の回答の中で浮き彫りになった点ではなかろうかと思っております。非常に遺憾であります。
○記者(西日本新聞社) ここに書いてあるような不安とか懸念に対する回答は、今後、どういう形で求められますか。再質問するとか、国と協議をするとか。
○知事 再質問をするというのも一つの方法だろうと思っております。全然触れられていない部分が相当数に上るのでありまして、これでもってよしとするわけにはいかない立場であります。諫早市長、雲仙市長と連名でお出ししましたので、そういった点も再度相談して、今後、どう対応すべきか協議して判断したいと思っております。
○記者(朝日新聞社) 先日の意見交換の場では、鹿野大臣から事前に判断する前に地元説明がなかったことに対する謝罪の言葉がありました。今回は、菅首相の名前で回答が来て、菅首相直々の謝罪の言葉というのはないと見受けますけれども、そこに対してはどのように思っておられますか。
○知事 我々は、謝罪を求めるということが目的ではないのでありますが、一つの大きな判断をされる場合に、やはり謝罪よりもきちんとした地元に対する説明なり、そういった手順を踏んでいただくのが当然であると。謝っていただいたから済むという話ではないと思っておりまして、いずれの課題についても、我々としては上訴すべきか否か判断される場合には、当然、クリアしておくべき課題であると思っておりますので、まさに、なぜそういう手順が踏まれないで結論だけが先に得られたのかというのが当初からの大きな疑問であり、それはいまだに解消されないというよりも、むしろ、こういった回答をいただいて、強くそういうことを感じているところであります。
○記者(NHK) この回答がきた点について再確認したいんですが、9時半にこれは郵送で県に届いたという認識でよろしいでしょうか。
○知事
はい。3市長連名で質問書を出しておりましたので、一括して県庁に文書として送付されました。
直ちに、諫早市、雲仙市にはおいでいただいて、回答文をお手渡しいたしました。
○記者(NHK) 常識的に考えて、これは国の方からどなたか来て手渡されるものかなというような気もしていたんですが、郵送で渡されたことに対して、そういう国の姿勢の部分に対しては、ご意見はありますでしょうか。
○知事 郵送でも、おいでいただいても、それは選択肢としてあり得る話だろうと思いますが、ただ、中身を見せていただいて、改めてご説明においでいただくような内容もないと判断されたのも一つあるのかなと、これは想像の域を越えませんが、大変残念ですね。
○記者(NBC) 先ほど、これからの対応ですね、関係市とも話をしながらということをおっしゃっていましたけれども、具体的にこのあたりを目処に考えていきたいというのはありますか。
○知事 何を目処に、でしょうか。
○記者(NBC) 今後の対応について、例えばもう来月の中旬までにもう一度対応を考えて、具体的に言うと、もう一度出し直すなり、協議を求めるなり、来てほしいなり訴えるというのを考えているのか。
○知事 回答の中身があれば、おいでいただくのはやぶさかではありませんが、いまだ質問に対する回答も十分いただいてないという状況でありますので、そういった部分については、再度ご質問をさせていただくということも考えなければいけないだろうと思います。それをできるだけ早急に再質問をさせていただくなり、ということは検討したいと思っております。さほど時間を置くような内容ではないと思います。
○記者(読売新聞社) この間、長崎地裁の分の一次訴訟の裁判の弁論準備という手続があったんですけれども、その時に国側から上申書が提出されまして、その中身は期日の変更とか、判決の延期を求める内容だったんですけど、この理由が、何か訴訟外で長崎県側や原告側を含めて関係者と開門の方法、時期とかについて話し合いをしたいというような内容だったんですけど、その訴訟外の協議に応じる考えというか、その裁判の中になるんですけど、そういう意向は国の方にはあるようなんですけど。
○知事 県は訴訟当事者ではありませんので、どういった相談をされるおつもりであるのか、私どもはいわゆる地元として、訴訟は訴訟としてしっかり継続していただきたいというのは前回の23日にもお伝えをしました。私どもに対して何らかの協議、相談があるものとは、今のところ考えておりません。
○記者(長崎新聞社) その確認ですが、そうすると、さらに踏み込んだ回答がない限り、協議には応じないということでよろしいでしょうか。
○知事 まだ相談をしておりませんが、こういった回答では、十分地元の不安が解消されるという状況ではないというのは、明らかではなかろうかと思っております。
○記者(長崎新聞社) 質問状から少しずれるかもしれませんが、原告側は段階的開門でもいいですよと、常時開門にこだわりませんよみたいなことを言っているんですが、県としてはその段階的開門についてはどういう見解を持っていらっしゃいますか。
○知事
段階的開門であれ、いわゆる管理開門であれ、既に平成14年に短期開門調査をやっているわけですね。この回答をご覧いただいてお分かりのとおり、可能性がある、あるいは多くの要因の一つであるかもしれない。そんなことで、明確な科学的な分析結果、開門するとこう変わっていくよというような説明も根拠も示されてないわけです。
その一方で開門がなされるということになると、確実に防災機能は支障を来しますし、被害が生じるというのは当然ながら予測されるわけでありますので、極めて曖昧な根拠をもって開門がなされるというのは、地元としては納得できません。
○記者(長崎新聞社) ということは、今の時点では、段階的開門であれ、管理開門であれ、受け入れられないと。
○知事 はい、そうです。
○記者(長崎新聞社)
ついでによろしいでしょうか。
漁業被害は、短期開門調査の時にも被害は出ているんですね、たしか6,000万円とかだったですね。今回は、それ以上であればもっと被害が出るというふうに思われますか。
○知事
我々が一番懸念していますのは、判決の結果が常時開門ですので、常時開門がなされるということは、繰り返し申し上げますように、鳴門海峡の流速を超える速い潮の流れで、この排水門を出たり入ったりします。そうすると、漁場が洗掘される。これはもう体験をしてきているわけです。その時は開口部が1.2キロもあった。そういう状況の中で、具体的にアサリ漁場が洗掘されて被害を生じたということがあるわけです。
それと短期開門調査では、速い流速を生じさせてはならないということで、(潮位の)マイナス1.2メートル、プラス1.0メートル、非常に狭い水位の範囲で潮の出し入れをやったわけでありますが、その時にもやはりアサリ漁場に対して被害を与えている。現在は、250メートルの開門部分しかありませんので、そこが常時開門されると、ものすごい速い潮の流れが、出入りします。このため、私は常時開門をする際に、漁業被害がない開門の方法はあり得ないと思っています。
○記者(長崎新聞社) 短期よりももっと膨大な。
○知事
もっと甚大な被害が出てきます。
現に、常時開門をやると濁りが生じて急速に広がっていきますので、他県の漁業者の方々からも「そういった開門をされると困るよ」というような話も上がっているというような声もお聞きしておりますので、なぜ本当に国はこういった判決を受け入れてしまったのかということに関しては、全く理解できません。
○記者(読売新聞社) 再質問も含めてという話があったんですけど、再質問するにしても同じ内容にやっぱりならざるを得ないと思うんですけど、それに対する回答というのは、またこのような形でくることはおそらく考えられると思うんですけど、そうなると、菅首相に直接説明を求めるということも考えられると思うんですが、そういう考えはありますか。
○知事 そのことも一つの方法ではあるんだろうと思いますが、それ以上の回答が得られるでしょうか。得られるならば、当然ながら、政府のトップでありますので、文書をもって回答をいただけるのではないのでしょうか。
○記者(読売新聞社) 文書をもって。ただ、政治判断、政治決断に至った理由というところも、地元に説明しなかったという部分も具体的に書いてないんですけれども、その辺はおそらく直接やりとりをすれば出てくる部分というのはあるのかなと思うんですけど。
○知事 そういった可能性はあるのかもしれません。よくご理解いただいてない状況が明確になる可能性はあるのかもしれませんが、総理の時間がいただけるのかどうか。そしてまた、本当に私どものそうした疑問に対してお答えいただけるのかどうか、そういったことをやはり検討しないといけないと思います。
○広報広聴課長 すみません、そろそろ時間も押しておりますので・・・。
○記者(長崎新聞社) 農水省にお尋ねいただきたいというふうに放り投げていますけれども、あくまで窓口、県が求めていくのは首相に対してということになるんでしょうか、再質問するのは。
○知事 「政府一体となって」と書いてある割には政府一体となってない。「真摯に対応します」と言っていただいている割には全然真摯じゃない。これはどういうことなんでしょうか。
○記者(共同通信社) 知事、以前からおっしゃっている農業振興公社による訴訟の可能性という部分なんですが、以前から検討されているということで、今回の回答内容がどのように作用するかということなんですけれども。
○知事
前回の農水大臣との意見交換の場においでいただいた方々は、非常に不安の念を強くされたというようなお話も聞いております。
回答期限にいま少し時間がありましたので、もっと具体的な回答をいただけるのではないかと、我々は期待をいたしておりましたが、ご覧いただいたとおりの回答内容であるということについては、ますますその感を強くされたのではなかろうかと思っております。
農業振興公社も利害関係者の一人でありますが、今後、漁業者、農業者の皆様方と一緒になって、どう対応していくのか、できるだけ早く協議して方向性を見出していく必要があるのではないかと思っております。
○広報広聴課長 それでは、よろしいでしょうか。
○知事
ぜひ皆さん中身に触れていただきますように、特にお願いを申し上げます。よろしくお願いします。
ありがとうございました。