「元版大般若経 附 経箱」は、対馬市の西福寺に伝来した中国・元時代の経巻である。法量は縦30㎝前後、横11㎝前後。昭和61年に県指定有形文化財に指定された。600帖のうち429帖が現存する。
大般若経とは、唐の玄奘(げんじょう)三蔵(さんぞう)(※1)によって翻訳された般若経典(※2)の集成である。本経巻は、泰定(たいてい)3年(1326)に元・杭州の普寧寺(ふねいじ)へ高麗の僧らが注文し、印刷されたものである。
一部の巻末にある墨書からは、室町時代に入り、対馬島主の宗貞茂(そうさだしげ)(?-1418)が朝鮮から輸入して西福寺に安置し、その子である貞盛(さだもり)(?-1452)によって、同じ普寧寺版で欠巻が補われたことが推測される。
附となる経箱は6合あり、蓋裏の墨書によって、元禄13年(1700)に上対馬の人々によって寄進されたことがわかる。さらにそのうちの1箱の中敷板には、宝暦7年(1757)の修理の様子等が記されている。これらから、地域社会において本経巻が大切に維持・管理されてきたことがうかがえる。
本経巻は、現存例が少ない元版大般若経がまとまって伝来しており、元から高麗・朝鮮王朝へ、そして日本(対馬)へもたらされた経緯が判明することから、東アジアの印刷史および文化交流史上、また日本の仏教史上において非常に高い価値を有する。
(※1)玄奘三蔵:中国・唐の時代の僧。インドから持ち帰った経典を多数翻訳した。
(※2)般若経典:「般若」という名称を持つ経典の総称。「空(くう)」(本質的な実体のないこと)の教えを説く。