やや高めの髻(もとどり)を結い、耳に大きな耳璫をつけていて、その耳うしろから垂髪(すいはつ)は両肩にたれている。胸に大きな胸飾をつけ、膝まわりまで瓔珞(ようらく)の飾りがまわっている。面部はふっくらとした頬におだやかな目鼻だちであり、左手は胸前にあげ、右手は軽く膝上に出して、いずれも親指と中指をまるめている。衣文(えもん)も他像に比べて繁雑で、装飾性への志向がうかがわれる。優作であることに加えて当像が極めて貴重な存在となっているのは、像内から発見された結縁文(けちえんぶん)に「高麗国瑞州浮石寺」「天暦三年」などの記述があることである。浮石寺は朝鮮半島忠清道瑞山郡にあった寺で、天暦3年は中国・元の明宗の年号で、高麗の忠粛王17年に相当し、西暦1330年にあたる。朝鮮半島の高麗銅造仏で、制作時と安置寺院のわかるものは稀であり、誠に貴重な尊像といえる。