兜(かぶと)は三十二間筋兜で、その前立は水晶球の中に截(きり)金(がね)で装飾された小さな木彫像が入った宝珠である。胴は前後2枚の鉄製で、正面に火焔を背にした波切り不動明王を高肉に打ち出し、背面には梵字が打ち出されている。この甲冑は所々に菊唐草の金物を付け、鬱(う)金(こん)色の糸で威しているので「菊唐草透赤胴金物鬱金威甲冑」と記した例もある。総体的に重量感があり、兜の大きな吹き返し、双龍文が象(ぞう)嵌(がん)された大袖、獅子を打ち出した大きな臑(すね)当(あて)に毛(け)沓(ぐつ)、装飾的な仏(ほとけ)胴(どう)に総角(あげまき)といったように復古調である。これらから甲冑の製作は復古調が流行した江戸時代中期と考えられる。甲冑工芸史上すぐれた作品として認められ、明治43年(1910)の日英博覧会に出品された。なお、この他に「獅子王尊霊甲」と称される十六間大星兜が付属し、木彫の見事な龍(たつ)頭(がしら)が付く。
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