「樫ぼの」遺跡は、豆酘湾に注ぐ神田川の支流である権現川の上流にあり、遺構は川の縁に群集している。計15基が確認されており、大きさはそれぞれ異なっているが、直径が約1.5mから2m、深さが約1.5mのほぼ円形あるいは楕円形のピットである。内側から石積みされ、底に板石が敷き詰められ、常に水が替わるように工夫されている。民俗学的調査では、明治時代中期以降は利用されていないとされ、江戸時代とそれ以前の遺構であることが推測される。一般に、樫の実は天日で乾かすか水漬けにして保存されていたが、水漬けの場合も比較的規模の小さいものが普通である。これに対して、豆酘の「樫ぼの」は大規模で恒常的な設備として設けられている。これは、この地で樫の実が主食に近い食料であったことを裏付けるものであり、対馬の食習俗を知る上でも貴重な遺構である。