画面中央に、8本の沙羅双樹(さらそうじゅ)の下、北を枕に右手を屈臂して横臥する釈迦。まわりに悲歎にくれる菩薩や羅漢、更に下部には、やはり悲歎の様子を示す鳥獣が描かれている。左上部からは、仏母摩耶夫人(まやぶにん)が飛来している。摩耶夫人の飛来は右上方からの例が多いが、「図様は通有の涅槃図からはずれるところはない。」釈迦の肉身は金泥で塗りつぶし、納衣(のうえ)のひだ、輪郭はやや太目の截金(きりかね)によって表現。会衆(えじゅ)の肥痩ある墨線や彩色の濃淡による写実的表現、樹幹の丸味の表現は注目すべき特色である。この太目の截金の使用は、室町期の特色であり、樹幹描写の写実性の指向は、桃山的な表現の予兆を示すものと捉えられる。従って、本図は箱書にみられる享禄3(1530)年頃,即ち室町末の作と考えられる。また諸描法からみて、伝世を明確にしないが、中央絵仏師の作とみられる。
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