鰐口とは神社や寺院の軒に吊して打ちならす梵音具(ぼんおんぐ)である。金口や金鼓、打金などともいう。善福寺の鰐口は均整のとれた形の鋳銅製で、撞座の蓮華文はなく鉦鼓の面に似ている。鈞手の耳は片面式で、甲面の張りは薄いし眼や口の出は小さく古式であり、表裏の不整形な撞座は蓮華文を鋳成前に取りはずして製作しているようである。縁廻りに竪書きで陰刻銘文があり「奉懸善福寺権現鰐口一口大檀那丹後亀童丸合力上下諸人悉地圓満」「正平十年〈大才/乙未〉五月日院主権律師良鑁金剛敬白」と読める。松浦家の初祖である松浦久(ひさし)を祀る今宮神社の別当寺善福寺に松浦丹後亀童丸(後の直)が正平10(1355)年に諸人合力し「悉地(しっち)円満」を祈って寄進したものである。南北朝以前の在銘鰐口は少なく、作柄もよく、しかも歴史的に貴重な遺品ともいえるものである。面径30.5㎝。
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