長崎の絵師・川原慶賀(かわはらけいが)筆で、1820年代末の制作。「慶賀」の朱印と慶賀の通称である登与助を示す「Toyoskij」の署名がある。本図は、西洋人医師が外科手術をしている場面を描いたもので、その主題の特異性、リアルな表現といい長崎の洋風画の典型的なものである。図中、被術者の顔が最も目立つが、これはフランス石版画家ボアリーの石版画シリーズ『しかめ面』の中の一人物の顔をそのまま借用したものである。ボアリー版画を借用した慶賀作品は他に2点知られている。本図では苦痛を耐え忍ぶ患者のリアリティ表現に西洋の版画を利用したことに慶賀の着眼点の卓抜さが窺えると同時に、彼の洋画研究の一側面を見ることもできる。長崎画人の鎖国時における西欧とのかかわりを知る上でも貴重な作品である。
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