4月8日の花祭りに甘茶をそそぐ誕生仏である。釈尊が生まれて「天上天下唯我独尊」と唱えられたという姿である。黒光りのするこの誕生仏は、卵形の面相には明るい童顔があらわされ,帽子のような頭髪と大きな両耳が特徴的である。体部は円筒形ではあるが、僅かな膨らみをつくって胸腹部をあらわし,棒状に見える足も膝の前後の処理だけで見事に表現し、要を得て不自然さを感じさせない。上下する両腕も一見稚拙にみえるが,当像の主題をあらわすだけに大胆で大振りな表現は明快である。体部各所の簡略な表現のなかにみごとに若々しい肉体を捉えているのも生きた信仰の時代でこそ成し得たものであろう。少しせり出した蓮肉に立ち,半球形の台座は9弁の反花が素朴に線刻されている。鋳製は台座まで含んでろう型一鋳で、制作は高麗時代前半と考えられる。
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