臨済宗建仁寺派の春徳寺にある涅槃図。本図は、作者は不詳であるが、明代以降に中国で製作され、日本に請来されたものである。本図の特徴は、釈迦が宝床台の上で右手枕をし、左足の片膝をたてて横たわる等、一般的な涅槃の型をとらない点であり、道教の不老長寿の思想が重ねられていると思われる。
本図は呉(ご)彬(ひん)が制作した崇(そう)福(ふく)寺(じ)の「絹(けん)本(ぽん)著(ちゃく)色(しょく)仏(ぶつ)涅(ね)槃(はん)図(ず)」(国指定重要文化財)と強い関係を持つものであるが、画面に大きく釈迦を描いている点など、呉彬の描いた涅槃図とは大きく相違し、むしろ画面下方の一対の鳳凰、宝床台の前の白象や悲しむ2人の俗人のポーズなど、聖(しょう)福(ふく)寺(じ)の「涅槃図」(県指定有形文化財)と極めて酷似している。
明末から清初にかけての中国浙(せっ)江(こう)省(しょう)寧(にん)波(ぽう)では、浙派と呼ばれる仏画師たちが、伝統的な涅槃図とは異なる独特の構図の涅槃図を制作した。本図はこの浙派の画系に属するもので、長崎の絵画史、特に涅槃図の資料として、さらには中国貿易史の資料としても貴重なものといえる。
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