障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例 令和5年度活動報告書 令和6年6月 長崎県福祉保健部障害福祉課 はじめに 本県では、障害のあるなしにかかわらず、誰もが社会を構成する一員として、あらゆる社会活動に参加できる共生社会の実現を目指して、障害のある人に対する差別を禁止し、差別をなくすための施策を推進するための事項を定めた、 「障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例」を制定しています。 この報告書は、条例全面施行から10年目にあたる令和5年度、1年間の相談活動実績をまとめたものです。 相談窓口にどのような相談が寄せられ、問題の解消のために何が求められているのかを県民の皆様に知っていただくことで、障害のある人に対する差別をなくし、共生社会を実現するためにできることは 何なのか考えていただくきっかけになればと思います。   目次 T 条例の仕組み 1 条例の目的 2 障害のある人とは 3 差別の禁止 4 相談体制 5 問題解決のための調整機関 6 問題解決までの流れ U 相談活動の実績 1 相談者 2 相談方法 3 相談分類 4 相談分野 5 対応方法 6 活動回数と活動期間 7 連携 8 圏域別の相談件数 V 相談事例 W 障害理解・啓発活動 T 条例の仕組み                                   1  条例の目的 この条例は、障害や障害のある人に対する県民の理解を深め、障害のあるなしにかかわらず、誰もがあらゆる社会活動に参加できる共生社会の実現を目指しています。   2 障害のある人とは 身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病を原因とする障害など心身の機能の障害があり、これらの障害と社会的障壁によって、継続的又は断続的に日常生活や社会生活に相当な制限を受ける状態にある人を 「障害のある人」と規定しています。            3 差別の禁止 不均等待遇を行うこと 不均等待遇とは、障害や障害に関することを理由として、区別、排除、制限したり、条件を課すなど、障害のない人と異なる取扱いをすることです。特別な事情がないのに不均等待遇を行うことは差別に当たります。 合理的配慮を怠ること 合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と同等に権利を行使したり、同等の機会や待遇を受けるために必要な現状の変更や調整を過度な負担が生じない範囲で行うことです。障害のある人の求めがあった場合に、 特別な事情がないのに合理的配慮を怠ることは差別に当たります。 4 相談体制 差別に関する相談窓口として、各市町に地域相談員を171名(令和5年3月31日現在)、長崎県障害福祉課内に広域専門相談員を2名配置しています。相談を受けた地域相談員と広域専門相談員は、当事者それぞれの話を 十分に聴き、問題解決に向けて取扱方針を決定し、その方針に基づき連携して対応します。地域相談員は、各市町が委嘱している身体障害者相談員・知的障害者相談員・精神保健福祉相談員で承諾が得られた方に委託しています。 地域相談員の内訳(令和6年3月31日現在) 長崎市10名(身体6名、知的3名、精神1名) 佐世保市17名(身体13名、知的4名) 島原市4名(身体1名、知的3名) 諫早市10名(身体5名、知的3名、精神2名) 大村市7名(身体3名、知的2名、精神2名) 平戸市7名(身体3名、知的4名) 松浦市11名(身体8名、知的3名) 対馬市9名(身体4名、知的5名) 壱岐市10名(身体7名、知的3名) 五島市14名(身体9名、知的4名、精神1名) 西海市12名(身体8名、知的4名) 雲仙市13名(身体6名、知的7名) 南島原市16名(身体9名、知的5名、精神2名) 長与町7名(身体5名、知的2名) 時津町3名(身体2名、知的1名) 東彼杵町2名(身体1名、知的1名) 川棚町4名(障害区分なし) 波佐見町3名(身体2名、知的1名) 小値賀町0名 佐々町2名(身体1名、知的1名) 新上五島町8名(身体3名、知的3名、精神2名) 相談員数計169名(身体障害者相談員96名、知的障害者相談員59名、精神障害者相談員10名) 5 問題解決のための調整機関 地域相談員や広域専門相談員による問題解決が困難な場合は、障害のある人やその関係者からの申し立てにより、「障害のある人の相談に関する調整委員会」(以下、「調整委員会」という。)が助言やあっせんを行います。調整委員会は、申立てのあった事案について専門的な見地から公正・中立な判断をし、当事者双方の事情や意見を検証して、解決に向けた助言やあっせんを行います。 6 問題解決までの流れ 差別に関する問題が発生したら、県の相談窓口である地域相談員又は広域専門相談員が相談を受け付けます。相談員が調査や調整等を行い問題の解決を図ります。相談員による解決が困難な場合は、申立てにより調整委員会による助言・あっせんを行い解決を図ります。特に悪質な差別があったと思われる事案を解決するための手段として、知事による勧告・公表を用意しています。 U 相談活動の実績                                 1 相談者 相談者と障害区分 (本人)肢体不自由1件、視覚障害4件、聴覚障害1件、内部障害1件、知的障害1件、精神障害4件、難病1件、不明4件、計17件 (家族)知的障害1件、精神障害2件、難病1件、計4件 (支援関係者)聴覚障害2件、不明1件、計3件 (友人・知人)0件 (その他)肢体不自由1件、視覚障害1件、精神障害1件、その他1件、計4件 (計)肢体不自由2件、視覚障害5件、聴覚障害3件、内部障害1件、知的障害2件、精神障害7件、発達障害0件、難病2件、その他1件、不明5件、計28件 ※区分については、相談者に確認して分類しています。 相談者は、障害のある「本人」が17件(61%)と最も多くなっています。次いで、「家族」が4件(14%)、「支援関係者」が3件(11%)、でした。「その他」の4件は(14%)は、行政職員と事業者からの相談でした。 障害区分では、「肢体不自由」2件、「視覚障害」5件、「聴覚障害」3件、「内部障害」1件を合計した「身体障害者」が11件と最も多く、次いで「精神障害」が7件、「知的障害」、「難病」が各2件、「その他」、「不明」の6件は、障害全般に関わる相談でした。 2 相談方法 障害のある人に対する差別に関する相談は、電話、面談、手紙、ファックス、メールにより受理しています。相談は、障害の特性や状況に合わせて相談者が伝えやすい手段でできるようにしていますが、電話による相談が39件と大半を占めています。 受付時の相談方法 電話22件、面談2件、手紙0件、ファックス0件、メール4件、計28件 3 相談分類 令和5年度、1年間に相談窓口に寄せられた相談は28件でした。結果として、不均等待遇や合理的配慮の欠如に該当する相談は3件でした。調整委員会への申立てが行われた事案は、ありませんでした。 相談分類別の件数 主訴として、不均等待遇10件、合理的配慮の欠如4件、不適切な行為0件、不快・不満5件、意見・要望0件、問い合わせ9件、傾聴事案0件、計28件でした。結果として、不均等待遇2件、合理的配慮の欠如1件、不適切な行為2件、不快・不満8件、意見・要望0件、問い合わせ9件、傾聴事案6件、計28件でした。 ※相談分類項目の定義 「不適切な行為」条例の不均等待遇、合理的配慮の欠如には該当しないが、差別的・不適切な行為があったと考えられるもの。 「不快・不満」差別や不適切な行為があったとは判断できないが、相談者が差別と捉えて不快・不満の訴えをしているもの。 「意見・要望」条例や福祉制度、県への意見や要望に類するもの。 「問い合わせ」条例や福祉制度、合理的配慮の対応方法に関する問い合わせやリーフレットの提供依頼など。 「傾聴事案」相談者自身の気持ちを聞いてもらいたいというものや、対応不要の意思表示があったもの。 相談分類と障害区分 受付時の主訴 (不均等待遇)視覚障害1件、聴覚障害2件、内部障害1件、知的障害1件、精神障害1件、難病1件、不明3件、計10件 (合理的配慮の欠如)視覚障害2件、聴覚障害1件、不明1件、計4件 (不適切な行為)0件 (不快・不満)肢体不自由1件、視覚障害1件、知的障害1件、精神障2件、計5件 (意見・要望)0件 (問い合わせ)肢体不自由1件、視覚障害1件、精神障害4件、難病1件、その他1件、不明1件、計9件 (傾聴事案) 0件  (計)肢体不自由2件、視覚障害5件、聴覚障害3件、内部障害1件、知的障害2件、精神障害7件、発達障害0件、難病1件、その他1件、不明5件、計28件 結果 (不均等待遇)聴覚障害1件、不明1件、計2件 (合理的配慮の欠如)視覚障害1件、計1件 (不適切な行為)聴覚障害1件、不明1件、計2件 (不快・不満)視覚障害2件、聴覚障害1件、内部障害1件、知的障害1件、精神障害2件、不明1件、計8件 (意見・要望)0件 (問い合わせ)肢体不自由1件、視覚障害者1件、知的障害1件、精神障害1件、難病1件、不明1件、計9件 (傾聴事案)肢体不自由1件、視覚障害1件、知的障害1件、精神障害1件、難病1件、不明1件、計6件 (計)肢体不自由2件、視覚障害者5件、聴覚障害3件、内部障害1件、知的障害2件、精神障害7件、発達障害0件、難病2件、その他1件、不明5件、計28件 主訴として「差別に関する相談(特定相談)」で、「不均等待遇」に分類される相談は、障害区分の「視覚障害」で1件、「聴覚障害」で2件、「内部障害」で1件、「知的障害」、「精神障害」「難病」で各1件、「不明」で3件、の計10件ありました。 「合理的配慮の欠如」に分類される相談は「視覚障害」で2件、「聴覚障害」で1件、「不明」で1件の計4件でした。 事実確認などの結果としては、「問い合わせ」が9件と最も多く、「不快・不満」8件、「傾聴事案」6件、「不均等待遇」「不適切な行為」各2件、「合理的配慮の欠如」が1件でした。 4 相談分野 条例では、日常生活や社会生活での10の個別分野における差別行為の禁止を特に定めています。 (差別の禁止が規定されている10の個別分野) 福祉サービスの提供、医療の提供、商品及びサービスの提供、労働及び雇用、教育、建築物の利用、交通機関の利用、不動産取引、情報の提供等、意思表示の受領 相談分野と障害区分は、主訴が「不均等待遇」・「合理的配慮の欠如」の「差別に関する相談(特定相談)」の14件を相談の分野で分類したものです。 相談分野と障害区分 (福祉サービスの提供)視覚障害1件、精神障害1件、不明1件、計3件 (医療の提供)知的障害1件、難病1件、計2件 (商品及びサービスの提供)聴覚障害2件、不明2件、計4件 (労働・雇用)内部障害1件、計1件 (教育)その他)0件 (建築物の利用)0件 (交通機関の利用)0件 (不動産取引)計0件 (情報の提供等)視覚障害1件、聴覚障害1件、不明1件、計3件 (意思表示の受領)視覚障害1件、計1件 (その他)視覚障害1件、計1件 (計)肢体不自由0件、視覚障害3件、聴覚障害3件、内部障害1件、知的障害1件、精神障害1件、発達障害0件、難病1件、その他0件、不明4件、計14件 10分野別の相談件数 福祉サービスの提供3件、医療の提供2件、商品及びサービスの提供4件、労働及び雇用1件、教育0件、建築物の利用0件、交通機関の利用0件、不動産取引0件、情報の提供等3件、意思表示の受領1件、その他0件、計14件。 障害区分ごとに、どのような分野の相談があったかをみると、障害区分の「視覚障害」がある人からの相談3件は、「福祉サービスの提供」、「情報の提供等」「意思表示の受領」が各1件でした。「聴覚障害」がある人からの相談3件は、 「商品及びサービスの提供」が2件、「情報の提供」が1件でした。「内部障害」がある人からの相談1件は、「労働及び雇用」でした。「知的障害」がある人からの相談1件は、「医療の提供」でした。「精神障害」のある人からの相談1件は、 「福祉サービスの提供」が1件でした。「難病」のある人からの相談は、「医療の提供」でした。「障害の有無が不明な方」からの4件は、「福祉サービスの提供」、「情報の提供」が各1件「商品及びサービスの提供」が2件でした。 10分野の分野別の相談件数をみると、「商品及びサービスの提供」の分野が4件で最も多く、次いで「福祉サービスの提供」「情報の提供」が各3件、「医療の提供」が2件、「労働及び雇用」「意思表示の受領」が各1件となっています。 5 対応方法 対応と相談分野 主訴が「不均等待遇」・「合理的配慮の欠如」の「差別に関する相談(特定相談)」の14件の対応を相談分野別に分類したものです。 (相手方との調整)商品及びサービスの提供2件、情報の提供1件、意思表示の受領1件、計4件 (事実確認等)福祉サービスの提供1件、商品及びサービスの提供1件、情報の提供等1件、計3件 (関係機関引き継ぎ)福祉サービスの提供、計1件 (助言)商品及びサービスの提1件、計1件 (意見・要望の伝達)医療の提供1件、計1件 (相談窓口の紹介)0件 (情報提供・資料送付)労働及び雇用計1件 (傾聴主体)福祉サービスの医療の提供1件、労働及び雇用1件、計2件 (その他)福祉サービスの提供1件、医療の提供1件、計2件 (計)福祉サービスの提供3件、医療の提供2件、商品及びサービスの提供4件、労働及び雇用1件、教育0件、建築物の利用0件、交通機関の利用0件、不動産取引0件、情報の提供等3件、意思表示の受領1件、その他0件、計14件  差別に関する相談についての対応は、全体として「事実確認等」が4件、「相手方との調整」が3件、「助言」「傾聴主体」が各2件、「関係機関引継ぎ」、「意見・要望の伝達」、「情報提供・資料送付」が各1件でした。 「相手方との調整」を行った相談分野は「商品及びサービスの提供」、「情報の提供」、「意思表示の受領」で、「事実確認等」は「商品及びサービスの提供」が2件「福祉サービスの提供」「情報の提供」が各1件でした。 対応と相談分類(結果)の関係 次の表は、相談に対する対応状況について、相談分類と対応の関係を表したものです。相談者の同意に基づき、相手方や関係者から聴き取り調査を行い、双方の意向を確認した後に条例における対応方針を決定し、調整や対応を行っています。 (相手方との調整)不均等待遇2件、合理的配慮の欠如1件、不適切な行為1件、計4件 (事実確認等)不快・不満4件、計4件 (関係機関引継ぎ)不快・不満1件、問い合わせ1件、計2件 (助言)不適切な行為1件、不快・不満1件、問い合わせ2件、計4件 (意見・要望の伝達)不快・不満1件、計1件 (相談窓口の紹介)問い合わせ4件、傾聴事案2件、計6件 (情報提供・資料送付)不快・不満1件、問い合わせ2件、計3件 (傾聴主体)傾聴事案4件、計4件 (計)不均等待遇2件、合理的配慮の欠如1件、不適切な行為2件、不快・不満8件、意見・要望0件、問い合わせ9件、傾聴事案6件、計28件 「問い合わせ」9件についての対応は、「相談窓口の紹介」が4件、「助言」、「情報提供・資料送付」が各2件、「関係機関引継ぎ」が1件でした。「不快・不満」8件についての対応は、「事実確認等」が4件、 「関係機関引継ぎ」、「助言」、「意見・要望の伝達」、「情報提供・資料送付」が各1件でした。「傾聴事案」6件についての対応は、「傾聴主体」が4件、「相談窓口の紹介」が2件でした。「不均等待遇」2件についての対応は、 「相手方との調整」が2件でした。「不適切な行為」についての対応は、「相手方との調整」、「助言」が各1件でした。「合理的配慮の欠如」1件についての対応は、「相手方の調整」でした。 6 活動回数と活動期間 対応ごとの活動回数 (相手方との調整)4件、活動回数61回、平均回数15.3回 (事実確認等)4件、活動回数21回、平均回数5.3回      (関係機関引継ぎ)2件、活動回数6回、平均回数3.0回 (助言)4件、活動回数19回、平均回数4.8回 (意見・要望の伝達)1件、活動回数6回、平均回数6.0回 (相談窓口の紹介)6件、活動回数14回、平均回数2.3回 (情報提供・資料送付)3件、活動回数11回、平均回数3.7回 (傾聴主体)4件、活動回数6回、平均回数1.5回 (その他)0件、活動回数0回、平均回数0.0回 (合計)28件、活動回数144回、平均回数5.1回 活動回数(対応回数)は、事案や対応方法によって大きな差がありますが、平均すると5.1回となりました。 「相手方との調整」や「事実確認等」などの対応は、複数の機関と連携して対応にあたることが必要なため活動回数(対応回数)が多い傾向がありました。また、相談件数は昨年度(48件)より20件減少でした。 相談受付から解決までの活動期間については、相談を受けた当日に解決したものが16件と最も多く、3日間が4件、6日間が1件、7日間が2件、8日間が2件、12日間が1件、13日間が1件、31日間が1件でした。 7 連携 他機関との連携 問題解決のために、必要な場合には、他の機関等と連携を図って対応を行っています。対応をしていく中で、他機関等と連携し解決に至った件数は、12件でした。  主な連携先は、県の担当課や、国・県・市町の関係機関です。複数の機関と連携を図った事案もありました。 地域相談員との連携 相談活動 地域相談員が「差別に関する相談」を受けた際は、広域専門相談員と連携して問題の解決を図っています。地域相談員が相談を受けて、広域専門相談員が対応を引き継いだ相談、地域相談員からの紹介で広域専門相談員が対応した事案はともに0件でした。 地域相談員研修会 令和5年度から令和6年度にかけ、全圏域で地域相談員研修会を予定しています。令和5年度は、県内4地区(県南地区、佐世保・県北地区、 上五島地区、五島地区)で4回の研修会を開催しました。 令和6年度は、長崎・西彼地区、県央地区、壱岐地区、対馬地区で研修会を開催する予定です 相談員通信 地域相談員と広域専門相談員の連携の一助として、相談員通信を年に 1回発行しています。内容は、地域相談員研修会の様子、広報媒体での周知活動、街頭キャンペーン、県条例リーフレット(小学生版)の作成、障害者理解促進に向けた関係団体と事業者との意見交換会の様子などについてでした。 8 圏域別の相談件数 相談者の居住地域を障害保健福祉圏域(10圏域)で分類しています。 圏域別相談件数 長崎圏域8件、西彼圏域1件、県央圏域3件、佐世保圏域0件、県北圏域0件、県南圏域4件、五島圏域2件、上五島圏域0件、壱岐圏域0件、対馬圏域1件、県外5件、不明4件、合計28件 圏域別の相談件数については、「長崎圏域」が8件と最も多く、「県南圏域」が4件、「県央圏域」が3件、「五島圏域」が2件、「西彼圏域」、「対馬圏域」が各1件、「県外」が5件、不明が4件でした。 V 相談事例 寄せられた相談について、個人情報保護の観点から、内容を一部変更するなど再構成をしたうえで、事例として掲載しています。 1 商品及びサービスの提供  旅行会社のクルーズツアーに申し込んだ際、介助者の同伴を求められた 相談者 聴覚障害があるAさん Aさんは、補聴器を使用しています。旅行することが好きで、これまで何度も海外旅行などを楽しんで来ました。 今回、広告で見た旅行会社のクルーズツアーに参加の申込み手続きを行おうとしたところ、旅行会社から「聴覚障害のある人は、安全上の問題で一人での参加は受け付けられない。介助者の同伴の上で申し込んでほしい」と言われました。 Aさんは、同伴をお願いできる家族や知人がいなかったため、参加の申し込みを行うことができませんでした。 今回のクルーズツアーに参加できないのは、とても残念に思いました。 (対応と結果) 旅行会社へ状況確認を行った結果、今回のクルーズツアーは添乗員が同行しておらず、万一緊急事態が起こった場合、聴覚障害のあるAさんの安全を確保することが難しいという理由で、聴覚障害のある人は一律で同伴者なしでの参加を断っている ということがわかりました。旅行会社はAさんの聴覚障害の症状等をほとんど把握していなかったため、障害の状況とAさんは適切な配慮があれば一人でもツアーに参加できる旨を説明し、併せて、法律や条例の趣旨、国や旅行会社が示している ガイドライン等を提示しながら、Aさんが同伴者なしで参加することができるよう検討を依頼しました。 その結果、Aさんは、同伴者なしで参加申し込みが出来るようになりました。しかし、後日、Aさんから「再度、旅行会社から連絡があり、旅行会社ではなく船会社の判断で、やはり安全上の問題という理由で参加することができなくなりました」 という連絡があり、残念な結果に終わってしまいました。 (広域専門相談員から) 「不均等待遇」とは、障害のある人に対して、正当な理由なく、障害を理由として、サービスの提供を拒否したり、制限したり、障害のない人には付けない条件を付けることです。 今回のケースでは、旅行会社がAさんの個別の事情等を考慮せず、また、具体的場面や状況に応じた検討を行うことなく、漠然とした安全上の問題ということから、聴覚障害を理由に一律で介助者の同伴を求めていました。 このことは、客観的に見て正当な理由によるものとは言えず、「不均等待遇」に該当すると考えます。旅行会社においては、障害のある人がツアーに参加するに当たって、障害の状況、特性や困りごと、必要な配慮等を確認する 必要があります。また、障害のある人と事業者が双方でどのような措置を講じるか検討することで、障害への理解が深まり、同時に障害のある人と事業者がお互いの事情を把握することができ、納得のいく配慮が可能になると思います。 また、正当な理由でやむを得ず断らざるを得ない場合は、障害のある人にその理由を丁寧に説明し、理解を得るよう努めることが大切です。 今回の事例は内閣府と国土交通省に報告し、旅行会社・船会社に対し、法律や障害及び障害のある人への理解、特性に合わせた適切な配慮等を周知徹底していただくよう依頼しました。 今回のクルーズツアーの場合は、船籍が外国であったため船会社に対して周知が行き届くことが難しい状況にありましたが、環境の整備などハード面の改善だけではなく、世界中の人たちの心のバリアが取り除かれ、 社会全体で障害のある人への理解が深まり、必要な配慮と周囲の温かい思いやる心があれば、障害のある人も障害のない人と同じように安心して自由に旅を楽しめるような共生社会の実現へ繋がっていくことと思います。 2 商品及びサービスの提供 金融機関での代筆対応について 相談者 視覚障害のあるBさん Bさんは、金融機関へ投資信託の口座開設に行きました。 窓口で申請書類に自筆やサインを求められ、自筆することは困難なので職員に代筆を求めましたが、家族以外が代筆することはできないと応じてもらえませんでした。 Bさんの両親は高齢のため金融機関に同行するのは難しく、視覚障害のある人に対して、何か配慮してほしいです。 (対応と結果) 金融機関へ状況確認を行った結果、金融機関では視覚障害のある人に対して、預金等の手続きに関しては職員による代筆はできますが、投資信託のようにリスクのある商品に関しては、 原則職員による代筆はできないと内部規定で定めており、代替案として、家族の代筆を提案していたことがわかりました。金融機関へ、県の条例や国の監督指針を示しながら、 視覚障害のある人への対応の改善を検討していただくよう依頼しました。その後、Bさんは、別の金融機関で、投資信託の口座開設をすることができました。 (広域専門相談員から) 投資商品は、元本割れの可能性のある商品でもあるため、当該金融機関では内部規定で職員による代筆は認めていませんでした。金融庁の監督指針では、職員の代筆による対応は可能なことが記されていますが、 金融機関全体でみると、投資商品の申請書類の自筆について職員の代筆を認めていないところが多い状況であり、金融機関においては、金融庁の対応指針に沿った対応が求められます。 視覚障害のある人への対応として、視覚障害があるという理由で一律に家族の代筆を求めるのではなく、同じ障害でも特性はそれぞれ異なるため、まずは障害のある人の状況を確認し、 その人にとって適切な配慮を検討するなど寄り添う姿勢が大切です。本件の場合では、郵送による書類の提出、弱視の人であれば、文字の拡大、代読、自筆サインしやすいように手を添える等が考えられます。 3 その他 結婚問題について 相談者:身体障害Cさん 交際をしている男性と結婚の話になりましたが、男性にも障害があり、両親から二人の障害を理由に結婚を反対されました。 男性は「出来ないことは手伝う」と言ってくれており、そのことを両親にも伝えますが、なかなか納得してくれません。第三者から「障害のある人同士でも結婚している人はいる」と伝えてほしいです。 また、私は父親から虐待を受けていたので、現在、親元を離れ施設で暮らしています。しかし、その後も父親から何度も電話がかかってくるので困っています。 (対応と結果) 条例では、社会的枠組みが介在しない私人間の問題は、調整の求めがあっても傾聴主体であることを基本方針としているため、Cさんへ結婚問題に関しては当窓口で対応できないことを伝え、適切な相談窓口の紹介を行いました。 また、Cさんの話を伺っていると、父親から虐待を受けていたことや、現在も連絡があって困っていることがわかったため、虐待担当部署と情報共有を行い、今後の対応を、Cさんが居住する市町の障害者虐待防止センターへ 関係機関引継ぎとしました。 (広域専門相談員から) 特定相談に寄せられる相談のうち、約半数以上は、特定相談の対象には該当しない「その他の相談」となっています。反面、一見差別とは関係ないと思われる相談でも、丁寧に話を聞いていると、差別や虐待等に関する 相談や緊急な対応が必要な相談であることが判明することもあります。 この事例も、相談者の話を傾聴していると、父親から虐待を受けていたということが分かったものです。相談員は、一つ一つの相談について予断を持つことなく、丁寧に対応することが求められます。 障害のある人への虐待は、障害のある人の尊厳や生命を脅かすものであり、虐待に関する相談を受けた場合、速やかに市町の障害者虐待防止センターまたは、長崎県擁護センターへ通報・届出をする必要があります。 4 その他 合理的配慮について@ 相談者 ホテルスタッフDさん 当ホテルに盲導犬と一緒に宿泊したいという問い合わせがあり、盲導犬の受入を行うためにどこかへ届出等を行う必要はあるのですか。 また、本人へ障害について尋ねたいのですが、失礼にあたりませんか。 (対応と結果) ホテルのスタッフに、盲導犬受入に際して特段の届出等の必要はないということを伝えました。また、宿泊者は盲導犬同伴ということから視覚障害のある人と考えられるため、ホテルに宿泊するにあたって 「障害の状況や配慮すること等を事前に確認し、出来る範囲で環境を整えておくことはとても大切なことです」とホテルのスタッフに助言しました。 (広域専門相談員から) 身体障害者補助犬は、障害のある人の自立と社会参加をサポートする大切なパートナーです。身体障害者補助犬法において、公共施設、飲食店などの民間施設等は、補助犬の同伴を受け入れる義務があると定められています。 本件は、事業者が盲導犬同伴で宿泊したいという問い合わせを受け、障害のある人から配慮等の申し出がある前に、事業者が自分たちに何か配慮できることはないかと、合理的配慮の提供について前向きに検討する姿勢が感じられました。 合理的配慮は、障害のある人から社会の中にある障壁を取り除くために何らかの意思表明があった場合に、過度の負担が生じない範囲で対応を行うこととしていますが、意思の表明がない場合でも、誰もが利用しやすいような環境づくりを 自主的・積極的に行っていくことはとても望ましいことと言えます。また合理的配慮は、具体的場面や状況に応じて異なり、多様で個別性の高いものです。様々な障害の特性を幅広く理解し、合理的配慮を考慮した環境整備を行うことは、 誰もが暮らしやすい共生社会に向けた重要な取組です。 5 その他 合理的配慮についてA 相談者:精神障害のあるEさん 役所の窓口に書類を提出しに行きたいのですが、自分には精神障害があるため、コミュニケーションが上手く取れず、職員との対応に不安があります。 窓口で、自分の障害のことを職員に伝えてもいいでしょうか。 (対応と結果) Eさんへ「窓口の職員へ、自分の障害の状況やEさんがどのようなことに不安があってどのようなことを配慮してほしいのか、自分の思いを伝えることはとても大切なことですよ」と伝えると、「わかりました。そうしてみます」という返答があり、 後日、Eさんから「職員に、丁寧でわかりやすく説明していただいて、無事書類を提出できました」と連絡がありました。 (広域専門相談員から) Eさんは、精神障害であるということを他人に知られたくないという思いがありました。実際に、障害のある人自身から事業者へ、障害のことや配慮の申し出をしづらい場合もあるかもしれませんが、合理的配慮は、 障害のある人からの申し出を起点に具体的な配慮の検討が行われます。 配慮の内容は、事業者と障害のある人又は家族や支援者などが、納得のいくまで話し合いをすることで適切な配慮の提供が可能になります。 障害のある人の状態や要望、また、提供する側の状況をお互いが理解し合い、より良い方法で配慮が提供されるよう、建設的対話を通して配慮の方法をすり合わせていくことはとても重要なことです。 県の条例では、制定当初から民間事業者に対して合理的配慮の提供は義務付けされていますが、国の法律でも、令和3年度の法改正によって、令和6年4月に民間事業者に対して、過度の負担のない範囲で、合理的配慮の提供が義務化されました。 法令や条例がしっかりと理解され、障害のある人が自立し安心して日常生活や社会生活を営むことができるよう、条例の周知と共に、障害のある人への理解が深まるよう取組を行ってまいります。 W.障害理解・啓発活動                                  1地域相談員研修会 県内4地区(島原会場、上五島会場、佐世保会場、五島会場)で、地域相談員研修会を開催しました。研修会の前半は、県条例について理解を深め、後半は、日常生活や社会生活の場面ごとに、差別事案の対応を検討しました。 グループワークでは、障害のある人が暮らしやすい社会や街を作るために、私たちはどのように行動したら良いのか意見を交換し合い、参加者同士の交流を深める機会となりました。   2「障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例」リーフレット(改訂版)作成 令和3年の障害者差別解消法の改正に伴い、令和6年4月1日より、事業者による合理的配慮の提供が義務化されました。また、内閣府は、この改正に伴い、障害者差別解消法に関する質問に回答すること及び障害を理由とする差別等に関する 相談を適切な自治体・各府省庁等の相談窓口に円滑につなげるための調整・取次を行うことを目的とし、令和5年10月16日から令和7年3月下旬までの間、試行的に「つなぐ窓口」を設置しました。 県では、法改正に伴い「障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例」リーフレット(改訂版)を作成し、「つなぐ窓口」開設に関するチラシと併せて、学校関係、各市町、関係団体等に配布しました。       3心の輪を広げる障害者理解促進事業 県では、毎年12月3日から9日までの『障害者週間』に合わせ、障害のある人とない人が共に生きる社会の構築を目指し、内閣府との共催事業として、毎年「心の輪を広げる体験作文」と「障害者週間のポスター」の募集を行っています。 令和5年度は、作文部門で75編、ポスター部門で79点の応募をいただき、ご応募いただいた多くの作品の中から入賞作品を収録した作品集を作成し、県内の小・中・高等学校や行政機関、福祉団体、障害者施設などに広く配布を行いました。 4障害のある人もない人も共に生きる社会の実現を目指すための街頭キャンペーン 令和5年12月に、「障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例」に基づき、県民の皆様に障害及び障害のある人に関する理解を深めていただくため、長崎市浜の町アーケードにおいて、街頭キャンペーンを実施しました。 県議会議員・障害者関係団体・県福祉保健部が参加し、多くの道行く人々に条例リーフレット・ウエットティッシュ等を配布しました。 おわりに 本県では、平成26年4月1日に「障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例」を施行し、条例施行後10年目となる令和5年度は、前年度の活動経験も踏まえ、相談活動や条例の普及啓発に努めてきました。 国においては、平成28年4月1日から「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下、障害者差別解消法)」が施行され、その後、令和3年5月1日に「障害者差別解消法」の一部を改正する法律が成立し、 令和6年4月1日にこの法律が施行されました。 この改正法では、障害を理由とする差別の解消の一層の推進を図るため、事業者に対して社会的障壁の除去実施について必要かつ合理的配慮することを義務づけるとともに、行政機関相互の連携強化を図るほか、障害を理由とする差別を解消するための 支援措置を講ずることとされています。 本県の条例もこの法律も、全ての県民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指しています。 今後も相談制度の適切な運営を図るとともに、法律と併せて、条例の更なる普及啓発に努めてまいります。 相談・問合せ先 長崎県福祉保健部障害福祉課 広域専門相談員   〒850-8570 長崎市尾上町3-1 電話 (095)895-2450 ファックス (095)823−5082 メール 相談内容の入力フォームをホームページ内に掲載