ふるさと再発見 第18回
三重・式見 波音に誘われて、魚のまちへ

新長崎漁港の明け方の風景

港では今日という一日がもう始まっている。

 長崎の魚はおいしい。旅先から帰ってくると、改めてそのことに気付かされる。
 三方を海に囲まれ、複雑な海岸線や潮流が絶好の漁場を生む長崎県の漁獲高は、北海道に次ぎ全国2位。魚種も豊富で、その数は全国一といわれている。長崎県は1年を通して旬の魚が食べられる水産王国である。
 三重(みえ)地区にある新長崎漁港は、そんな長崎の海の台所。日本有数の規模を誇るこの漁港では毎朝大量の魚が水揚げされ、全国へと出荷されている。新長崎漁港が開港したのは平成元年。しかし、三重地区は江戸時代の頃より港町として栄えてきた。美しい入江が連なり、自然豊かな表情を見せてくれるこのエリアは、昔も今も人々に大きな恵みを与えている。
 魚のまちは朝が早い。まだ夜も明けぬうちから、命懸けで漁を終えた船が次々と港へ入ってくる。漁師たちの無事に安堵(あんど)するとともに、その光景は大漁への期待感を膨らませる。
 今回は、水産王国「長崎」を支える魚のまちを旅する。

 

魚がうまい。おばちゃんたちとの会話もまたうまい。

 魚のまちへ来たからには、なにはともあれまずは新鮮な魚をいただこうと、長崎魚市場内にある食堂を訪れた。壁にはメニュー写真がズラリ。どれもボリュームたっぷりで、この内容で本当にこんなに安いの?と思っていたら、テーブルの上には「お写真以下のお料理は決してお出し致しません」の文字。これは期待できそうだ。
 注文したのは1番人気の刺身定食。運ばれてきた料理を見て驚いた。店の方は「刺身は最低でも10点盛りですね。内容はその日の仕入れによって違いますが、ほとんど原価でやってます」と笑う。毎朝魚市で仕入れているだけあって、もちろん鮮度も抜群だ。魚市場内にあるため、この店の常連は主に漁業関係者。魚のプロが毎日通うのだから、おいしいはずである。
 店主の寺中惠美子(てらなかえみこ)さんは、そんな常連客との会話が楽しいと話す。しかし朝6時から8時という店の混雑時に向けて、毎日3時半から仕込みを始めるというから仕事は過酷だ。「仕事の大変さもありますが、時化(しけ)のときが困りますね。魚が揃(そろ)わなくても質は落とせませんから」。
 昼時は常連客に一般客が混じってさらに賑わう。一般客の見分けはすぐにつくらしい。常連さんから「おいしかろ?ここは、なんでんおいしかもんね」と声を掛けられた。どうも刺身定食を注文するのが一般客の目印となっているようだ。新鮮な魚は食べ慣れているのだろう。漁業関係者や地元の人たちはハンバーグやカレーといったメニューを注文していた。
 カウンターには名物の甘鯛(あまだい)の唐揚げをはじめ、日替わりで20種類ほどのおかずが並んでいる。持ち帰りもできるそうで、ここで夕食を調達する人も多いという。厨房(ちゅうぼう)で働いているのは地元の女性たちだ。寺中さんは「冷凍は使いません。手作りのおふくろの味を大切にしています」と話す。
 うちわえびのお味噌汁がついた刺身定食を平らげ、鯨(くじら)カツまでいただいた。魚のまちをお腹いっぱい堪能(たんのう)できる至福の店である。



 

 

水産食堂
長崎市京泊3-3-1(長崎魚市場内) TEL:095-850-3751
※一般客は6時~14時(休みは長崎魚市場の休業日に準じる)
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