古代の風が吹く島 壱岐
原の辻遺跡
歴史が息づく島をまるごと体感する

 日本と東アジアを結ぶ広大な海の道に浮かぶ壱岐。この島が歴史の表舞台に登場したのは、中国の正史『三国志』の中の「魏志倭人伝(ぎしわじんでん)」である。これには31の国の名が記されているが、国の場所と王都の位置の両方が特定されているのは国内で唯一、壱岐の「原(はる)の辻(つじ)遺跡」だけ。約2000年前の弥生時代に一支国(いきこく)の王都として栄えたこの集落は、世界に開かれた海洋都市だったのである。
 壱岐には原の辻遺跡のほか、県内一の数を誇る古墳や1000を越える神社など、悠久の歴史を感じさせる場所が多い。
 今回は、壱岐ならではの4つの体験を通して新たな島の魅力に迫る。

2000年の時を超えて海の王都に立つ

 島に上陸して最初に向かったのは、今年春にオープンした「一支国博物館(いきこくはくぶつかん)」。館内は、壱岐の歴史がわかりやすく展示されており、特に原の辻の生活シーンがミニチュア版で再現されたコーナー(一支国トピック)は、弥生時代の人々の想いまでもが伝わってくるようだ。
 博物館で壱岐の歴史を学んだその足で、ボランティアガイドの喜多正(きたまさし)さんと原の辻遺跡に向かった。ここでは、これまでの発掘調査をもとに一支国の王都の復元整備が進められている。丘陵部では100棟以上の住居や倉庫、物見やぐらが確認されており、現在、祭儀場を中心に特徴ある建物17棟が復元されている。
 喜多さんが興味深いと紹介してくれたのが2005年に発掘された「周溝状遺跡」。一見すると小さなステージのようだが、円形に溝をめぐらした遺跡からは祭祀(さいし)用と思われる道具が多く出土し、重要な儀式が行われていた場所だということがわかった。この場所は遺跡の中心域(祭儀場)と考えられる地域にあたり、この発見により、祭儀場内の建物の使途などがより明確になったという。

博物館の中では160人の弥生人たち(模型)がお出迎え

一支国博物館

ボランティアガイドの喜多正さん

 原の辻遺跡の目の前には広大な田畑が広がり、その向こうには壱岐で最も高い山、岳ノ辻(たけのつじ)がそびえている。「弥生人は一生懸命米作りに励んだんでしょうね。その米と中国大陸や朝鮮半島の最先端の文物と交換していたのではないかと思うんです。そんなふうに当時に想いを馳(は)せ、歴史を想像することは楽しいですね」。喜多さんはこう語る。 
喜多さんが初めて原の辻遺跡の発掘調査の手伝いをしたのは中学2年生の頃。それから50年以上の時を経て、喜多さんの心は今なおロマンを求め続けている。「もともと歴史が好きでしたが、学べば学ぶほど自分だけの知識にしておくのはもったいないと思うようになったんです」。
 国の特別史跡に指定されている原の辻遺跡では、現在も復元整備が進められているが、発掘されているのは100ヘクタールにも及ぶ遺跡範囲の約10パーセント程度。今後、王の墓や渡来人の船など、日本の歴史を塗り替えるような貴重な品々が発掘されていくのかもしれない。一支国の解明はまだ始まったばかりである。

一支国博物館
壱岐市芦辺町深江鶴亀触515-1 TEL. 0920-45-2731
潮風に吹かれて無人島をめぐる

 壱岐といえば美しい海。島内には数多くのビーチがあるが、島の人が勧めてくれたのは辰ノ島(たつのしま)という小さな無人島。遊覧船でクルージングした後は、上陸して散策が楽しめるという。さっそく遊覧船の待つ勝本(かつもと)港へと向かった。
 心地よい潮風が吹く中、船はゆっくりと出航した。地元の人が勧めるだけあって海の透明度は高く、思わず海底に吸い込まれてしまいそうだ。
「あそこに見えるとがオオカミ岩ですよ。ほら、あの上の方には鷹の巣も見ゆるでしょ」とやわらかな方言で船長さんが自らガイドを務める。海の宮殿と呼ばれる神秘的な洞窟や、海の上をマンモスが歩いているようなマンモス岩。次々と現れる奇岩や断崖は大自然の奥深い魅力を感じさせる。
 40分かけて島を一周した後は、いよいよ辰ノ島へ上陸だ。島へ一歩足を踏み入れた時、「アオリイカの赤ちゃんがおるよ」と地元の人の声が聞こえた。覗き込むと、小さなイカや小魚が泳いでいる。遠浅の海は美しく、どこまでも透き通っていた。
 海水浴場脇の急な遊歩道を上ると、鬼(おに)の足跡(あしあと)と呼ばれる窪地(くぼち)にたどり着いた。壱岐では鬼ヶ島伝説が語り継がれており、この窪地は大鬼が鯨をすくい捕るために踏ん張ってできた足跡だとされている。歩を進めると、壱岐随一の景勝地である蛇ヶ谷(じゃがたに)がある。まるでパイ生地を重ねたような数10メートルの断崖はダイナミックで、上から見下ろすと谷の深さに足がすくむ。波と海風が長い時間をかけて造り出した雄大な風景は、大地に刻まれた記憶そのもの。かつてこの島に鬼がいたという伝説さえ信じさせる圧倒的な力がある。遠くには対馬(つしま)の島影が見えた。
 辰ノ島には電柱やコンクリートの建物が一つもない。手つかずの自然とは、このことをいうのだろう。見たことのない木々が生い茂り、紫色の花が咲く小道をオレンジ色の蝶々がひらひらと舞っている。島には野生の鹿が生息しており、朝一番の船で上陸すると、砂浜でごくまれに鹿の足跡を見つけることができるという。毎年10月末まで実施されている辰ノ島のクルージング。海上から地上からそれぞれの魅力を楽しんでみたい。

垂直に切り立った断崖絶壁「蛇ヶ谷」

鬼の足跡

オオカミ岩

勝本町漁協観光案内所
壱岐市勝本町勝本浦575-61 TEL.0920-42-2020
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