長崎県ケアラー支援条例(仮称)(案)  我が国では、少子高齢化、核家族化の進展・単身世帯の増加、晩婚・晩産化及び未婚率の上昇 等の社会環境の変化により、高齢者の介護を高齢者が行う「老老介護」、子育てと介護を同時期 に行う「ダブルケア」、独身者の子どもが同居する親の介護を担う「シングル介護」、18歳未満 の子どもが介護を担う「ヤングケアラー」等の介護に関する様々な社会問題が表面化している。  また、近年では、医療的ケア児及び高次脳機能障害者等の様々な介護現場の増加、自然災害の 頻発及び新型コロナウイルス感染症への対応など、介護者の負担は日増しに増加している状況に ある。  本県においても、全国的な傾向と同様に少子高齢化の進展をはじめとする社会環境の変化に伴 い、介護者の負担のさらなる増加が懸念される一方、社会においては「家族が介護するのは当た り前」といった規範意識が根強く存在し、これが介護者を孤立させ、抱える悩みを声に出しにく い一因となっている。これらの課題解決を図るため、介護者に対する早急な支援体制の強化等と 併せて、県民等が介護者側の問題を理解し、介護者が孤立しないよう社会全体で支える機運を醸 成していくことが重要である。  ここに、私たちは、介護者に対する理解を深めるとともに、社会全体で支えていく仕組みを構 築し、誰もが安心して介護や看護、日常生活上の世話その他の援助を行うことができる社会を実 現することにより、もって持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる「だれ一人取り残さない」社会 の実現を目指すことを決意し、この条例を制定する。  (目的) 第1条 この条例は、ケアラーに対する支援(以下「ケアラー支援」という。)に関し、基本理  念を定め、県の責務並びに県民等、事業者及び関係機関の役割を明らかにするとともに、ケア  ラー支援に関する施策の基本となる事項を定めることにより、ケアラー支援に関する施策を総  合的かつ計画的に推進し、もって全てのケアラーが健康で文化的な生活を営むことができる社  会を実現することを目的とする。  (定義) 第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。  (1) ケアラー 高齢、障害又は疾病等により援助を必要とする親族、友人その他の身近な人に対   して、無償で介護、看護、日常生活上の世話その他の援助(以下「介護等」という。)を提供す   る者をいう。  (2) ヤングケアラー ケアラーのうち、18歳未満の者をいう。  (3) 県民等 県民、県内に通勤し、又は通学する者及び県内で活動する者をいう。  (4) 事業者 県内に事務所又は事業所を有し、事業活動を行う者をいう。  (5) 関係機関 介護、障害者及び障害児の支援、医療、教育、児童の福祉等に関する業務を行い、   その業務を通じて日常的にケアラーに関わる可能性がある機関をいう。  (6) 民間支援団体 ケアラー支援を行うことを目的とする民間の団体をいう。  (基本理念) 第3条 ケアラー支援は、全てのケアラーが個人として尊重され、健康で豊かな生活を営み、その  生活の継続性が損なわれることなく自らの人生を歩むことができるように行われなければならな  い。 2 ケアラー支援は、県、県民等、市町、事業者、関係機関、民間支援団体等の多様な主体が、そ  れぞれの責務又は役割を果たし、相互に連携を図りながら、ケアラーが孤立することのないよう  社会全体で支えるように行われなければならない。 3 ヤングケアラーに対する支援は、ヤングケアラーとしての時期が特に社会において自立的に生  きる基礎を培い、人間として基本的な資質を養う重要な時期であることに鑑み、適切な教育の機  会を確保し、かつ、心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られるように行われなけれ  ばならない。  (県の責務) 第4条 県は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、ケアラーに関す  る介護、障害者及び障害児の支援、医療、教育、児童の福祉等の制度間の調整を図りつつ、離島、  へき地及び中山間地域の地域性及び特殊性を踏まえ、ケアラー支援に関する施策を総合的かつ計  画的に実施するものとする。 2 県は、ケアラー支援における市町の役割の重要性に鑑み、市町がケアラー支援に関する施策を  実施する場合には、助言その他の必要な支援を行うものとする。 3 県は、第1項の施策を実施するに当たっては、市町、事業者、関係機関、民間支援団体等と相  互に連携を図るものとする。  (県民等の役割) 第5条 県民等は、基本理念にのっとり、ケアラーが置かれている状況及びケアラー支援の必要性  についての理解を深め、ケアラーが孤立することのないように十分配慮するとともに、県及び市  町が実施するケアラー支援に関する施策に協力するよう努めるものとする。  (市及び町の役割) 第6条 市及び町は、基本理念にのっとり、ケアラー支援に関する施策をその地域の特性に応じて、  総合的かつ計画的に実施するよう努めるものとする。 2 市及び町は、前項の施策を実施するに当たっては、事業者、関係機関、民間支援団体、県等と  相互に連携を図るよう努めるものとする。  (事業者の役割) 第7条 事業者は、基本理念にのっとり、ケアラー支援の必要性についての理解を深め、その事業  活動を行うに当たっては、県及び市町が実施するケアラー支援に関する施策に協力するよう努め  るものとする。 2 事業者は、雇用する従業員又は雇用しようとする者がケアラーである可能性があることを認識  するとともに、ケアラーの就労の促進及び継続に資するよう、その就労と介護等との両立に資す  る環境の整備に努め、その者がケアラーであると認められるときは、当該ケアラーの意向を尊重  しつつ、勤務するに当たっての配慮、情報の提供その他の必要な支援を行うよう努めるものとす  る。  (関係機関の役割) 第8条 関係機関は、基本理念にのっとり、県及び市町が実施するケアラー支援に関する施策に積  極的に協力するよう努めるものとする。 2 関係機関は、その業務を通じて日常的にケアラーに関わる可能性がある立場にあることを認識  し、関わりのある者がケアラーであると認められるときは、当該ケアラーの意向を尊重しつつ、  当該ケアラーの健康状態、その置かれている生活環境等を確認し、支援の必要性の把握に努める  ものとする。 3 関係機関は、支援を必要とするケアラーに対し、情報の提供、適切な他の支援機関への案内又  は取次ぎその他の必要な支援を行うよう努めるものとする。  (教育に関する業務を行う関係機関の役割) 第9条 教育に関する業務を行う関係機関は、その業務を通じて日常的にヤングケアラーに関わる  可能性がある立場にあることを認識し、ヤングケアラーの早期発見に努めるとともに、関わりの  ある者がヤングケアラーであると認められるときは、当該ヤングケアラーの意向を尊重しつつ、  当該ヤングケアラーの健康状態、生活環境、教育の機会の確保に係る状況等を確認し、支援の必  要性を把握するよう努めるものとする。 2 教育に関する業務を行う関係機関は、支援を必要とするヤングケアラーからの教育及び福祉に  関する相談に応じるとともに、ヤングケアラーに対し、適切な支援機関への案内又は取次ぎその  他の必要な支援を行うよう努めるものとする。  (ケアラー支援推進計画) 第10条 県は、ケアラー支援に関する施策を総合的かつ計画的に推進するための計画(以下この条  において「推進計画」という。)を策定するものとする。 2 推進計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。  (1) ケアラー及びヤングケアラー支援に関する基本方針  (2) ケアラー及びヤングケアラー支援に関する具体的施策  (3) 前2号に掲げるもののほか、ケアラー及びヤングケアラー支援に関する施策を推進するため   に必要な事項 3 県は、推進計画を定め、又は変更したときは、遅滞なくこれを公表するものとする。  (広報及び啓発) 第11条 県は、広報活動及び啓発活動を通じて、ケアラー自身が、自らの置かれている状況につい  て正しく理解したうえで、適切な支援を求めることができるよう必要な施策を講ずるものとする。 2 県は、広報活動及び啓発活動を通じて、県民等、事業者、関係機関、民間支援団体等が、ケア  ラーが置かれている状況、ケアラー支援の方法等のケアラー支援等に関する知識を深め、社会全  体としてケアラー支援が推進されるよう必要な施策を講ずるものとする。  (人材の育成) 第12条 県は、ケアラー支援の充実を図るため、相談、助言、日常生活の支援等のケアラー支援を  担う人材を育成するための研修の実施その他の必要な施策を講ずるものとする。  (体制の整備) 第13条 県は、ケアラー支援を適切に実施するため、ケアラー支援に関する施策を総合的かつ計画  的に実施するために必要な体制及び県、市町、関係機関、民間支援団体等の相互間の緊密な連携  協力体制の整備に努めるものとする。  (民間支援団体等による支援の推進) 第14条 県は、民間支援団体その他のケアラーを支援している者が適切かつ効果的にケアラー支援  を推進することができるよう情報の提供、助言その他の必要な施策を講ずるものとする。  (財政上の措置) 第15条 県は、ケアラー支援に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努め  るものとする。    附 則  この条例は、令和5年4月1日から施行する。