西海橋は、戦後間もない1950(昭和25)年に着工し、物資が十分でない中、1955(昭和30)年に日本初の有料道路橋として完成しました。架橋当時は「東洋一のアーチ橋」と呼ばれ、地域振興や観光振興に貢献し、現在では戦後日本における長大橋建設の原点として高い評価を受けています。
かつて、西彼杵半島が「陸の孤島」と呼ばれていた時代は、西彼杵半島と佐世保方面への交通手段は船であり、時には危険を冒して、伊ノ浦瀬戸の急潮を渡らなければなりませんでしたが、昭和初頭からの地元住民の架橋にかける夢は実を結びました。
完成から15年後の1970(昭和45)年には借り入れた建設費用を償還して無料となり、現在も長崎県北部と南部を結ぶ幹線道路として利用されています。
2020(令和2)年12月、設計、製作、施工のすべての面において卓越した技術が駆使された、我が国初の海峡横断橋であり、その後世界最大級の規模を実現する我が国の戦後長大橋の出発点として、「技術的に優秀なもの」「歴史的価値の高いもの」として、国指定重要文化財(建造物)に指定されました。戦後土木施設の架設橋梁として、初の重要文化財指定となります。
- 所在地 長崎県佐世保市針尾東町~長崎県西海市西彼町小迎(一般国道202号)
- 所有者 長崎県
- 構造形式 鋼製単アーチ橋 橋長316m 幅員8.2m
- 建設年 1955(昭和30)年
西海橋建設の背景
西海橋架橋は、昭和初頭に地域住民からの強い要望を受けた22の町村長が集まって、県に要望をしたところから始まります。
西彼杵半島北部は「魔の海峡」と呼ばれた伊ノ浦瀬戸により隔絶され、「陸の孤島」と云われていました。
旧大串村の大串盛多村長は、橋が架かれば西彼杵半島は発展すると考え、1935(昭和10)年、県議会議員になり架橋の重要性を訴えました。1940(昭和15)年には県営道路改修事業に伊ノ浦架橋費の追加決議がされましたが、太平洋戦争開戦により事業は中断します。
長崎県は国に対して架橋を強く働きかけ、1950(昭和25)年から対日援助見返金(占領軍の対日援助)よる事業として着工することになりました。
1952(昭和27)年からは「道路整備特別措置法」によって有料道路制度が定められ、国の直轄事業として工事は継続されました。
関係者の願いと長年の努力が実を結び、西海橋は戦後間もない1955(昭和30)年10月に完成しました。
西海橋と若手技術者
西海橋を設計した技術者は、旧建設省の吉田巌(よしだ・いわお)氏で、東京大学工学部に在学中、卒業論文のテーマとして「針尾瀬戸に架けるアーチ橋の応力計算」を選ばれ、英語の文献などを参照しながら、ほとんど手探りで 論文を書き上げられました。この論文が、当時、西海橋の建設を進めていた旧建設省の目に留まり、別の会社への就職が決まっていた吉田氏を説得し、入省へとこぎつけ、直ちに西海橋の現場へ送り込まれました。
設計は、工事事務所長だった旧建設省の村上永一(むらかみ・えいいち)氏と吉田氏を含む若手技術者で行われました。戦後間もない物資の乏しい時代であったため、鋼材を節約しながらも十分な強度を持たせつつ、国内初の長大橋にふさわしいデザインが求められました。
後年、吉田氏は本州四国連絡橋の架橋に携わるなど、日本を代表する技術者となられました。
西海橋は長大橋建設の始点と言えます。
世界初の架設工法
西海橋が架かる伊ノ浦瀬戸(針尾瀬戸)は水深40メートルで、幅300メートル程度と大村湾の潮のわずかな出入口であることから、最大潮流が9ノット(時速16.67km)に及びます。そのため海中に支柱を設けることが出来ず、空中からのケーブル操作によって、両岸から突出して組み立て、最後に両岸から伸びたアーチ主構を中央部で閉合させる突出式吊出し工法が用いられました。この工事は世界最初の試みであり、日本の技術水準を高めることに貢献しました。
西海橋の佐世保市側には、設計と工事に携わった技術者の氏名が記された銘板が取り付けられています。
うず潮と桜と西海橋
この橋は、建設当時「伊ノ浦橋」と呼ばれていましたが、1955(昭和30)年10月の完成後、開通式で「西海橋」と命名されました。
1955(昭和30)年3月に、九十九島や五島列島が西海国立公園に指定されており、西海の名が広く知られるきっかけとなり、全国から多くの観光客で賑わいました。
現在、この西海橋周辺は「うず潮まつり」が恒例として定着し、春の観光シーズンに咲き誇る桜が訪れる人々の心を癒しています。
なかでも、うず潮と橋の下から見上げるトラスのアーチは、圧巻の光景と言えます。
西海橋のアーチ部は小さい部材で構成されたトラス構造で、アーチの断面を脚部に向けて末広がりに立体的なつくりとなっており、現代的な軽快さと古典的な安定感を併せ持っています。
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