気候変動適応策に関連する取組事例(研究編)

農林技術開発センター(農林業分野)

農林技術開発センターでは、地球温暖化や気候変動適応策に関連した以下のような研究を実施しています。


(1)長崎県における水稲高温耐性品種「なつほのか」の栽培適地マップ

高温耐性極良食味品種のひとつとして2016年に本県の奨励品種に採用された「なつほのか」の普及を図るため、1kmメッシュごとの水稲生育期間中の日平均気温と日長データを用いて、本県における栽培適地マップを作成。

/e-nourin/nougi/info/newsletter/pdf/s-news31適応_お米の品質や収量を保つために田植え時期や水管理を工夫する.pdf

(2)温暖化に対応したモモ「さくひめ」の生育特性

モモの生育には冬季の低温確保が必須であるが、温暖化の影響でその低温が確保しにくい年もみられる。そのような中、「さくひめ」は低温要求量が少なく、温暖化対応品種として普及が期待されている。そこで、「さくひめ」のハウス栽培における生育特性を明らかにした。

fruit_momo/e-nourin/nougi/info/newsletter/pdf/s-news35.pdf

総合水産試験場(水産業分野)

総合水産試験場では、地球温暖化や気候変動適応策に関連した以下のような研究を実施しています。


(1)地球温暖化に伴う漁場環境の変化および資源変動について

気象庁の資料では、九州西方海域を含む東シナ海北部の海面水温は、令和2年までの100年間で1.25℃上昇していると報告されており、その影響として、サンマ、スルメイカの不漁、ブリやマグロの分布域や回遊経路の変化および南方系魚類の生息範囲の拡大といった現象が起こっている。今後も漁場環境の変化および資源変動について継続して注視していく必要がある。

水産業_影響_ブリの漁獲量増加

(2)養殖ワカメの選抜育種による高成長品種の作出

近年の温暖化の影響により、養殖ワカメの生育不良や漁期の短期化による生産の不安定が問題となっている。そこで、高成長を示す養殖ワカメから採取した配偶体を保存培養して種糸を生産し、養殖試験を繰り返し行うことで、現在の環境下においても高水温耐性を有する優良品種を作出する。作出した品種の導入により、養殖ワカメの安定生産に繋げていく。

水産業_適応_高水温耐性品種の開発(ワカメ)

環境保健研究センター(環境衛生分野)

環境保健研究センターでは、地球温暖化や気候変動適応策に関連した以下のような研究を実施しています。


(1)長崎県における熱中症発生の地域特性と気象との関連性に関する研究

地球温暖化による気温上昇に伴って、熱中症発生は増加傾向にあります。平成22年から令和2年までの長崎県の熱中症による救急搬送者数を下図に示します(赤字は死亡者数)。熱中症グラフ2熱中症は今後も発生していくと思われますが、熱中症が発生しやすい条件をあらかじめ調べておくことで、今後の熱中症発生への注意を促すことができるようになると考えています。

暑さ指数(WBGT)について

熱中症発生の目安として、暑さ指数(WBGT)という数値がよく使われています。単位は気温と同じですが(℃)、その値は気温とは異なります。人体と外気との熱のやり取りに着目しており、その熱のやり取りへの影響が大きい気温、湿度や日射の状況などから決まる数値です。
現在、県内の細かい地域ごとの暑さ指数(WBGT)を求めるために、気象の観測や推計を行っています。

暑さ指数(WBGT)と熱中症発生者数との関係

令和2年度の暑さ指数(WBGT)の日最高値(県内平均値)と熱中症発生者数との関係を下図に示します。
暑さ指数(WBGT)が高くなればそれに伴って、熱中症発生者が多くなっていることが分かります。
また、令和2年6月から8月までの日ごとの熱中症発生者と、その日の暑さ指数(WBGT)の日最高値の関係を下図に示します。暑さ指数(WBGT)が前日に比べて急に上がった日は、特に熱中症が発生しやすいと推測できます。

今後の計画と予防策について

今後は、細かい地域ごとの熱中症発生状況と暑さ指数(WBGT)の状況を分析し、長崎県内の地域ごとの違いを調べていく予定です。
分かった熱中症の発生状況や原因について、注意喚起などの予防策につなげていくことを目標としています。

(2)マリントキシンの迅速検出法の開発

長崎県は海岸延長全国2位で複雑な海岸地形を擁することもあり、豊かな漁場とそれに伴う豊富な種類の魚介類が水揚げされる全国屈指の水産県です。それに伴い、県民の皆様が魚介類を喫食する機会も比較的多いかと思います。皆様が食べる魚介類のほとんどは安全なものですが、稀に「マリントキシン(海洋性毒素)」により毒化した魚介類の喫食を原因とした食中毒が発生しているのも事実です。マリントキシンの有名なものとしてフグ毒(テトロドトキシン)がありますが、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

当センターでは以前から、全国屈指の水産県である長崎の海産物を安心・安全に食べていただけるよう、この「マリントキシン」を迅速に検出できる手法の開発及び検査に取り組んできました。

今般、地球温暖化の影響の一つとして海水温の上昇による海洋生物の生態系の変化等が指摘されています。海水温が上昇すると後述するように私たちの食生活にも「マリントキシン」の影響が出てくる恐れがあります。マリントキシンの迅速検出法は、温暖化対策(適応策)として活躍する可能性があるかもしれません。

マリントキシンによる魚介類の毒化

マリントキシンによる食中毒の経路ですが、これは魚介類の毒化から始まります。
フグのように、世間一般的に有毒とされている魚種はともかく、普段は毒性を有していない魚種についても「稀に」毒化することがあることを知っておく必要があります(下図参照)。

温暖化による影響と適応策

さて、温暖化による海水温上昇は魚食にどのような影響を与えるのでしょうか。
海水温が上昇するとこれまで日本近海には存在しなかった有毒プランクトンの生息域が拡大することが予想されています。これに伴い、前述した海洋生物の有毒化の頻度が増え、食中毒のリスクが高まることが予想されます。
また、魚の生息区域の変化によって有毒かどうか不明な雑種の出現も危惧されています。
環境保健研究センターでは長崎県特産の魚介類を安全に、また安心して食べることができるよう、マリントキシンの迅速検査法の開発等を含めた検査・研究を行っていますが、温暖化に対する適応策としても機能することが期待されます。

 

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