中国の農村について
皆さん、こんにちは。前回のコラムで中国の都市について紹介いたしましたが、今月のコラムでは中国の農村についてご紹介したいと思います。
一、中国の農村人口
中国の2023年の農村人口(香港、マカオと台湾を除く)は499,814,553人です。総人口の約35.43%を占めています。[1]
中国の農村人口推移グラフ(1960~2023年) 出典: graphtochart.com
上記グラフで中国の農村人口の推移を見てみると、最新の2023年の農村人口が最も少ないことが分かります。また、前年度の2022年よりも14,782,017人少なくなっており、農村人口は減少しつつあると言えます。特に、最も農村人口が多かった1991年と現在の農村人口を比べると、1.12倍もの差があり、農村人口がいかに減少したかが分かります。都市化の推進によって、数多くの人々が都市に移住したためではないかと思われます。
二、農村部の貧困削減
新中国が成立した1949年から1970年代までは、都市部と比べて農村部の貧困は常に突出した問題でした。現行の農村部の貧困の基準[2]に基づくと、1978年末の中国農村部の貧困者数は7億7,000万人で、農村部の貧困発生率は97.5%に達していました。
1978年の改革開放以来、中国の農村の貧困人口は大幅に減少しました。家庭聯産承包責任制(生産責任制)が展開されるにつれて、 農村の住民の一人当たりの所得は年を追うごとに増加していきました。1986年から、中国政府は貧困支援専門機関を設立し、中央財政特定項目貧困支援資金を手配し、開発を進めていくスタイルでの貧困支援方針を確立しました。2012年末時点で、中国農村部の貧困者数は9,899万人に減少し、農村部の貧困発生率は10.2%まで低下しました[3]。2013年11月、「ターゲットをしぼった貧困支援」という重要な政策が出されました。「ターゲットをしぼった貧困支援」というのは、貧困に陥っている原因に基づいて方向性を定めてガイドラインを制定し、個人、世帯、村の必要に合わせて対策を実施するのです。
中国の湖南省湘西土家(トゥチャ)族苗(ミャオ)族自治州十八洞村は、中国の「ターゲットをしぼった貧困支援」政策の発祥地として有名です。この村は、湘西地区に位置し、かつては貧困村として知られていました。村民は主に伝統的な農業に従事しており、地理的に孤立していて、交通が不便で経済発展が遅れていました。2013年、十八洞村は貧困村に指定され、脱貧の必要性が高まりました。
それ以降、少数民族文化を活かした観光業を展開し、特産品の販売と観光体験を通じて収入を得ています。また、村民が協力して農業と手工芸を強化し、現在では自給自足だけでなく、市場に販売することで収入も増加しています。十八洞村は、貧困脱却の成功例として注目されています。
十八洞村の一角 出典:新華網
2020年末には、この9,899万人全員が現行の基準の下で貧困から脱却し、過去40年間、中国の世界の貧困削減事業に対する寄与率は70%以上に達していると思われます[4]。
三、活気あふれる新農村
近年、中国の農村は新たな発展を遂げ、かつての静かな田舎のイメージを一新しました。地域全体が近代化され、農民の生活は豊かで便利になっています。また、都市とのアクセスも改善され、観光業や地元産業の発展により、村にはかつてない活気が生まれました。地域の特産品を売り出したり、観光客が訪れたりするなど、新しい経済の流れが生まれ、農村はますます元気に、活気に満ち溢れています。
四川省内江市東興区石子鎮は、内江市の中で農村振興と生態観光の成功例として知られています。この地域は豊かな自然資源を活かし、果物や野菜、特に柑橘類の栽培が盛んで、地元産品としてブランド化されています。地元政府の支援を受け、電子商取引を活用した農産物の販売が促進され、都市部の消費者への直接販売が可能となりました。
さらに、石子鎮では農業と観光業を組み合わせた「生態観光」を推進し、観光客が収穫体験や農業体験を楽しむことができる観光スポットを整備しています。この取り組みにより、地元住民の雇用機会が増え、収入が安定しました。また、道路やインフラの改善により、村全体の生活環境も向上しています。
石子鎮水上ゴルフ 出典:https://baike.baidu.com
北京市平谷区大華山鎮は、北京市平谷区に位置しています。この地域は、果樹園や農業体験施設を整備し、観光と農業を融合させた「都市型農村」として発展しています。
特に、平谷区は桃の栽培で有名であり、「桃の故郷」としてのブランドを確立しています。大華山鎮では、この桃を活用した観光イベントが毎年開催され、観光客が桃の収穫体験や地元料理を楽しむことができます。さらに、オンライン販売を通じて北京市内外にも地元の新鮮な桃を届ける取り組みが行われ、地域経済が活性化しています。観光業の発展によって、地元住民は観光ガイドや農産物販売の仕事に従事する機会が増え、収入の安定に繋がっています。
桃の故郷 出典:https://www.sohu.com
江蘇省華西村は、豊かな経済力で「天下第一村」として知られています。かつて貧しい農村でしたが、村全体で企業を立ち上げ、鉄鋼業、化学工業、観光業など、産業を多角化して急成長を遂げました。現在では、村内には高層ビルや博物館、テーマパークも整備され、観光地としても有名です。村民の一人当たりの年収は都市部並みであり、華西村は農村振興の成功モデルとされています。
空から見た「華西村」 出典:https://you.ctrip.com/
四、これからの課題
中国は農村の発展において、実りのある成果を収めてきましたが、今後直面する課題は多岐にわたります。まず、都市と農村の経済格差の是正が最優先の課題です。急速な都市化により、農村地域の医療、教育などの公共サービスは都市に比べて大きく遅れています。この問題の解消には、中央政府によるさらなる支援と地方政府の協力が不可欠です。さらに、高齢化と若年層の都市流出が進行し、労働力不足が深刻化しているため、農業の現代化と効率化が求められています。農業技術の革新や自動化、スマート農業の導入が必要だと思われます。
今後も、さらなる発展と革新が期待され、中国農村の未来はますます明るいものとなるのでしょう。
[1] 2023年のworldbank.org調査による農村地域人口の算出が最新のデータ
[2] 1人あたりの年収が4千元(約8万4千円)以下であることは一つの基準になっています。
[3] 出典:http://j.people.com.cn/n3/2020/0527/c94475-9695008.html中国の貧困削減の時間軸
[4] 出典:http://j.people.com.cn/n3/2024/0913/c94476-20219147.html10組のデータからみる75年間の中国経済発展
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