北京の「ダイエット」進行中
皆さん、こんにちは。北京市から派遣された中国人の国際交流員李康と申します。はじめまして、どうぞよろしくお願いいたします。
北京は、言わずと知れた中国の首都で、中国の北部に位置しています。北京市は中国の首都であると同時に、直轄市の機能も備えています。そのため、首都としての行政機関、そして「首都ではない」、直轄市としての行政機関が、この一つの都市に集中し、人口の膨張、交通渋滞、大気汚染、不動産価格の高騰、社会ガバナンスの難しさなど様々な問題を引き起こしています。東京、ニューヨーク、ロンドンなどの国際都市のように、人口2000万人を超えた北京市も「大都市病」の問題に直面しています。
今回は、北京市がいかに「大都市病」を解消し、都市機能の「ダイエット」をするのかについて伝えていきたいと思います。
一、北京市について
北京の面積は16,410.5平方キロメートルで、日本の国土(377,975平方キロメートル)の約23分の1の大きさであり、長崎県の面積(4,131平方キロメートル)と比較すると約4倍に相当し、とても大きいことが分かります。また、北京の人口は2023年時点で約2185.8万人[1]です。人口密度は1平方キロメートル辺り1,330人となっています。因みに、長崎県の人口規模は2023年時点で約1,279,871人であり、人口密度は1平方キロメートル辺り310人となっているため、北京市は人口密度の面においても長崎県の4倍強に及ぶことが分かります。
中国の首都である北京市は、中国の政治、文化、国際交流と科学技術イノベーションの中心地です。都市部は高層ビルが立ち並ぶ大都市の様相を呈していますが、伝統的な宮殿や庭園も数多く残されており、中国の今と昔を感じられるエリアとなっています。北京は長崎県と同じように四季がはっきりした気候です。ただし、春と秋が短く、夏と冬がとても長いところが特徴といえます。観光で北京に訪れるなら、過ごしやすい気候の4-5月もしくは9-10月が良いでしょう。
北京を中心とする華北地域は「北京料理」の本場です。北京料理は、塩辛く、脂を多く使った濃厚な味付けが特徴です。代表的な北京料理は、「北京ダック」、「羊肉のしゃぶしゃぶ」や「ジャージャー麺」などです。ただし、北京は首都なので、各地の有名店が集まっています。中国各地の絶品料理を食べ比べできるのも北京の魅力です。
二、「ダイエット」前:大都市病に苦しんでいた
北京の大都市病が問題となっているのは、主に中心部の6つの区(東城区、西城区、海淀区、朝陽区、豊台区、石景山区)についてです。北京市の郊外には農村が広がっているし、全市の約6割が山地なので、北京市全域が大都市病であるわけではありません。また、北京市は天安門広場を中心として、同心円状に7つの環状道路が通っており、内側から順に一環路、二環路、三環路などと呼ばれます。大都市病が問題となるのは、おおよそこの六環路以内です。
(1)人口集中
国有大手会社・金融機関の本社やIT企業の集中に加え、戸籍を持たずとも才能勝負で出世を目指す若者、一攫千金狙いの地方出身ビジネスマン、出稼ぎ労働者などが殺到し、この数年間で北京の居住者人口は2000万人を超えたということになります。
(2)住宅・交通問題
人口増による住宅ニーズの高まりで、商業・教育・医療保健施設などが備わる市中心部の住宅価格が高騰しました。収入が限られる若者の多くが生活コストの安い郊外へ住居を移したため、学校・病院・商業施設・交通などの整備が追い付かないといった問題が生じています。例えば北京市内から約30キロ離れた河北省燕郊では毎日市内まで約30万人が通勤しています。バスが通勤手段の中心で、少しでも多く子女に睡眠を取らせるため、朝5時から定年になった親が代わりにバス停に並ぶという苦労話もあるほどです。
また、北京市では自動車の保有台数が2024年3月末時点で767.4万台[2](中国一)に達し、渋滞がもう一つの課題となっています。
(3)PM2.5問題
北京の大気汚染も注目されています。中国中央テレビ元キャスターが自費制作した記録映画『穹頂之下(Under the Dome)』が2015年2月末にリリースされ、大気汚染の発生源や対策をめぐる問題提起が激しい議論を呼んでいます。その映画では、北京周辺の鉄鋼・セメント工場、火力発電所、自家用車が大気汚染の原因とされています。
三、「ダイエット」方法
以上の問題を解消するため、北京市政府は2015年11月、北京市内の東部に位置し、河北省の廊坊市に隣接する通州区に副都心を建設することを決議しました。北京市の行政部門や事業機関は通州区へ移転されることになったのです。一方、首都機能の滞りを解消するためのプランを「京津冀一体化(北京・天津・河北一体化)」の方針に基づいて検討した結果、最適なプランとして2017年に決定されたのが、国家クラスの新たな行政区としての「雄安新区」でした。副都心の建設、そして「北京・天津・河北一体化」に向けた雄安新区の開発についてお伝えしたいと思います。
(1)副都心の建設
北京市政府は東京など国際都市の経験を参考にした上で、都市の枠組みを調整し、東京の新宿区やパリのラ・デファンス、ニューヨークのマンハッタンのような都市機能を完備する副都心の構築を試みることにしました。
北京の副都心は、市の中心から約25キロ離れています。計画面積は155平方キロで、2035年までに北京市内の人口40万から50万人が副都心に移動するよう取り組んでいます。北京市政府、市人民代表大会、市政治協商会議などの行政、立法機関の職員約1万5000人はすでに2019年に副都心に移転しており、2023年時点で約3万人の移転が完了しました。また、こうした移転に影響され、今後も多くの人口の移転が予想されます。計画によりますと、2025年までに副都心は「グリーン都市」、「森林都市」、「水害対策都市」、「スマート都市」、「カルチャー都市」、「快適居住都市」などの機能をほぼ実現する予定です。
(2)「雄安新区」の開発
雄安新区は、中国河北省保定市近郊に位置する国家級新区です。計画範囲は、北京市に隣接する河北省の中部に位置する「保定市」の管轄下にある「雄県」、「容城県」、「安新県」の3県、そしてその周辺部で構成される地域です。雄安新区の名称は、3県のうちの2県である雄県と安新県から一文字ずつ取って命名されたものです。雄安新区は、果樹園などが広がる田舎のエリアから、最先端のテクノロジー企業や研究機関を集積するサステナブルなモデル都市へと変貌する予定です。具体的には、以下の特徴があります:
1、非首都機能の移転: 北京市の過密を緩和し、教育、医療、行政機関の一部を雄安新区に移転させることで、北京の人口密度を減らし、経済発展を促進します。2、水域と緑地の重視: 雄安新区の面積の70%は水域と緑地で占められ、自然環境を重視しています。3、国家プロジェクト:中国の深セン経済特区、浦東新区に続く国家プロジェクトとして位置づけられています。雄安新区は、2035年までに建設され、21世紀半ばまでに完成する予定です。
四、「ダイエット」の成果
2022年まで、3000か所近い製造業と環境汚染企業を北京市から移転・撤退させ、各地の専門市場や物流拠点を1000か所近く整理し、7000か所以上の便利な商業店舗を構築しました。北京市中心部の6つの区の居住人口は2014年と比べて15%減少し、都市部と農村部の建設用地は110平方キロ減少しました。北京市中心部の北二環路近くにある「北京動物園卸売市場」は、かつて中国北部最大の衣料品卸売流通センターでしたが、混雑を極めた市場は既に閉鎖され、科学技術や金融、サービス産業を担う152の企業・機関が集積しています。
北京市副都心については、2020年から4年連続で1000億元(約2兆円)規模の投資が維持されて質の高い発展を推進します。2024年に計435件の重大プロジェクトが開始または継続される計画で、投資総額は1005億元に達する見込みです。計435件のプロジェクトのうち231件がインフラ関連で、2024年は東六環路の地下部分を含めた改造、ユニバーサル・スタジオ北側の総合交通ハブなどのプロジェクトの完工を目指して、河川改修の「温潮減河プロジェクト」、軌道交通M101線第1期、副都心駅総合交通ハブなどの建設を加速します。
2023年12月27日に、北京副都心の三大文化建築物が正式に一般公開されました。北京芸術センター、北京都市図書館、北京大運河博物館の三大文化建築物は都市緑心森林公園内に位置し、北京市党委員会・市政府と大運河を隔てて向かい合っています。
雄安新区については、北京から雄安新区を結ぶ高速鉄道は2020年にすでに開通しました。北京西駅から50分程度で到着可能になります。人口は2022年時点で、北京市から移転された人口を含めて総計約120.5万人になります[3]。
雄安は「スマート都市」でもあります。都市のコンピューターセンターが「ブレイン」となり、モノのインターネット(IoT)プラットフォームや映像統一ネットワークプラットフォームが、都市内のIoT設備や監視カメラを全て統一して管理し、CIMプラットフォームが、現実の環境と、コンピュータによって人工的に作り出された現実感を組み合わせる複合現実(MR)を実現する計画で、新区に建設される全てのビルのデジタル版が、デジタル雄安プラットフォームで生成されます。
そのほか、無人バス、無人販売車、自動運転の清掃車などが、建物の間の路上を行きかう状況は、未来都市を感じさせます。
五、「ダイエット」は成功できるか
副都心と雄安新区の建設については、特に雄安新区の建設は内陸部にゼロから新都市を造る計画なので、「北京郊外や天津市に開発余地があるのに、新都市開発は市場原理に合わない」、「教育レベルが高い北京を離れたいと思う人は少ない」等懸念する声も多いのです。
個人的に、北京市の政府機関はすでに副都心に移転されたため、副都心の建設は雄安新区より一歩踏み出したと思っています。雄安新区の開発は、未来に着眼した中国都市建設の夢を反映して、中国の都市化進展に必ず大きな影響を与えます。ただし、短時間で完了できるプロジェクトではないため、インフラ改善のほかに、人材誘致、企業誘致などの面においては、中央政府と地方政府として、「ダイエット」成功まで、更に工夫しなければなりません。
[1] https://tjj.beijing.gov.cn/tjsj_31433/sjjd_31444/202403/t20240319_3594001.html
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