Vol.204 中国(王盈)

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中国の太陽光発電

 

   大家好!前回の中国ショート動画に関する文章を書いたときは、まだ7月で暑かったですね。中国では、「我的命是空調給的!」という言い方がかなり流行っています。それは「この命はクーラーのおかげです」という意味です。ところが、真夏の時期、クーラーがあっても、突然停電になったら、この命はどうなるのでしょう。今日は「電力」について少しお話したいと思います。

   皆さん、「光伏羊」という言葉を聞いたことがありますか。次の写真を見てください。太陽光パネルの下で羊が草を食べていますね。これは「光伏羊」です。中国語の「光伏」は日本語の「太陽光発電」の意味で、「光伏羊」は「太陽光発電パーク」で放飼される羊を指しています。では、どうして羊が「太陽光発電パーク」で草を食べるようになったのでしょう。

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                                                         (「光伏羊」、人民網より[1])

[1] http://finance.people.com.cn/n1/2021/0608/c1004-32125695.html

一、「光伏羊」の由来

 上記の写真は青海省海南蔵(チベット)族自治州の塔拉灘生態太陽光発電パークでとられたのです。この太陽光発電パークの運営会社「黄河水電会社」は近くにある「鉄蓋村」という村と契約を締結し、村の農家にパークで羊を放飼させています。羊が簡単にパークに入れるように運営会社が本来地上50センチメートルのところに設置されたパネルを120センチメートルまで上げて、羊の「専用道」を広くしました。今パークに放飼されている羊は2万匹もおり、「光伏羊」と呼ばれ、一般の羊より高く売れます。一年間の売り上げは200万元(4000万円ぐらい)だそうです。[1]

 では、なぜ太陽光発電パークの運営会社が地元の人に羊を放飼させるようになったのでしょう。太陽光発電には「住宅の屋根にパネルを設置するタイプ」と「地面に設置した架台にパネルを乗せるタイプ」の二種類があります。太陽光発電パークでは、ほとんどが地上設置型で、パネルを定期的に洗浄する必要があります。パネル自体も太陽光の日射を遮るので、パネル下の水の蒸発が抑えられ、結局パネルの下に雑草が生えてきました。

[1] 「世界最大の設備容量を持つ太陽光発電パークー青海ゴビ砂漠における太陽光パネル海」、2022年7月8日、人民日報海外版、 http://www.nea.gov.cn/2022-07/08/c_1310639556.htm

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                     (パネルの洗浄作業、「人民網日本語版」より[1])

[1] http://j.people.com.cn/n3/2022/0802/c95952-10130113.html

   雑草によるパネルの故障や発電量の低下などの可能性もあり、定期的に草刈りをしなければなりません。そのため、雑草問題の解決に羊や鶏を活用することに目を向けた太陽光発電の運営会社が出てきました。羊や鶏を活用して除草すると、かなり費用が抑えられ、化石燃料も必要なくなるのでCO2排出量の削減にも役立つのでしょう。こういう考えで「光伏羊」が誕生しました。

  ちなみに、塔拉灘パークの面積は609.6平方キロメートルで、シンガポールの陸地面積にほぼ相当、年間発電量は1000万kWで、中国初の1000万kW級太陽光生態発電パークです。

 

二、「光伏+農業」で貧困脱却

  羊だけでなく、牛や鶏やガチョウなどが放飼される太陽光発電パークもあります。それらはもちろん「光伏牛」、「光伏鶏」、「光伏鵞」と呼ばれます。

牛

                         (「光伏牛」、中国電力報より[1])

[1] https://m.thepaper.cn/baijiahao_13908566

鵞鳥

                                                        (「光伏鵞」、中国林業網より[1])

[1]  https://kknews.cc/news/q436ybg.html

   太陽光発電パークで大きくなれるのは家畜だけではありません。次の写真は中国寧夏省の太陽光発電パークで撮られたものです。太陽光パネルの下で作業中の農家がとっているのは寧夏の名産物「枸杞(クコ)」で、その名はもちろん「光伏枸杞」です。陝西省銅仁市の太陽光発電パークで植えているのは黄耆 (おうぎ)、柴胡(さいこ)など漢方薬によく使われる薬草です。

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                  (「光伏枸杞」を取っている農家、国際エネルギー網より[1])

[1] https://www.in-en.com/article/html/energy-2273819.shtml

   要するに、太陽光発電パネルの下をどう利用するのかは地域によって違います。しかし、目標は同じです。それは地元住民も太陽光発電パークから実際に利益を得ることです。

   中国の地理に詳しい方は青海、寧夏、陝西という地名を見ればすぐ分かるのでしょう。大きな太陽光発電パークが設置できる地域は中国の北西部や西部の内陸地域で、沿海部ほど発達していない故、電力のニーズはそんなに大きくないのですが、かなり深刻な貧困問題を抱えています。太陽光発電パークのメンテナンスに地元住民を雇ったり、家畜放飼や作物の栽培に使う土地を提供したりして、継続的な給料や家畜などの販売収入によって地元住民も儲けるのなら、太陽光発電パークのよさも実感できるのでしょう。

 実は中国における太陽光発電パネルの導入は最初から貧困問題の解決と関わっているのです。「無電人口」という言葉をご存知でしょうか。それは電気を使えない人のことです。30年前の1993年、中国全国の「無電人口」は1.2億で、2000年以降「光明プロジェクト」をはじめとする国家プロジェクトが実施され、太陽光発電や小型風力発電によって、チベット自治区などの「無電人口」問題を解決しようとしました。2015年ごろ、ゼロ「無電人口」がようやく実現されました。最後の273万人の「無電人口」のうち、太陽光発電を通して電気を使えるようになったのは118.5万人だそうです。[1]

[1] 「新時代中国エネルギー発展白書」、2020年12月、中国国務院、https://www.gov.cn/zhengce/2020-12/21/content_5571916.htm

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              (政府の「光明ポロジェクト」で太陽光発電パネルが配られた、索比光伏網より[1]

[1] https://news.solarbe.com/201501/09/202135.html

 国家送電網がどう延長されても、それにアクセスできない中国人がいます。たとえば、新疆や内モンゴル自治区の遊牧民たち。彼らは夏になると、放牧のために移動し、テント生活をしなければなりません。

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                       (カザフ族の夏の大移動、AFPより[1]

[1] https://www.afpbb.com/articles/-/3178332?pno=6&pid=20215320

  太陽光発電パネルを携行できれば、いつでも電力が使えます。放牧先で小さな太陽光発電所によるミクロ送電網をつくり、照明だけでなく、洗濯機も回せるほど安定かつ強い電力を提供する試みもあります。遊牧民たちは放牧先でも「用上電」(電力を使える)だけでなく、「用好電」(電力を十分に使える)になっています。

 

三、「光伏魚塘」と東部沿海地域の太陽光発電試み

 上記の通り、大きな太陽光発電パークが甘粛省、新疆ウイグル自治区、寧夏自治区、青海省など、太陽光資源が豊富な地域に集中していますが、全国電力需要の70%以上が集中しているのは長江デルタをはじめとする中国の東部沿海地域および広東省の珠江デルタ周辺です。今現在、東部地域へ送電するため、大容量長距離送電線システムを積極的に建設されていますが、東部沿海地域では既有資源を活かして太陽光発電などによって電力需給のひっ迫する状況を解消しようとする試みも出てきました。

 たとえば、養魚池を利用して水上太陽光発電所を設置するという試み。東部沿海地域では人口が結構集中しており、北西部のような太陽光発電のメガパークを作れる土地はほとんどないですが、湖や川に恵まれて魚類養殖が非常に発達しており、養魚池が所々にあります。

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                      (江蘇省興化市の「光伏魚塘」[1]

[1] https://k.sina.com.cn/article_1653603955_628ffe73020015zl3.html

 上記の写真は江蘇省興化市の養殖池を活用して設置される水上太陽光発電パークです。パークの年間平均発電量は約2億キロワット/時で運転開始以来、発電量は14億キロワット/時も超えました。それに、年間約20万トンの二酸化炭素排出量を削減できるそうです。

 中国では太陽光発電以外に、風力発電などの導入も積極的に行っています。水力を含む再エネと原子力といった非化石エネルギーによる発電構造への転換は大気汚染や水質汚染などの公害問題を解決する方法とも見なされています。再エネと非化石エネルギーによる発電設備容量の比率は確かに年々高まっていますが、石炭火力発電中心という構造はまだ続いています。統計によると、2022年、石炭火力発電割合は依然として58.4%を占めています。[1]環境にやさしいグリーンエネルギーへの構造転換はまだまだ先が長いのですが、やりはじめたからには後戻りはできないでしょう。

[1]  「石炭火力発電のピークに向けて需要側の管理を強化する必要がある」、2023年4月23日、人民日報海外版、http://www.nea.gov.cn/2023-04/23/c_1310713059.htm

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               (内モンゴル自治区クブチ砂漠の太陽光発電パスワード、元一エネルギー網より[1]

[1] https://www.origin-se.com/newsinfo/1902009.html

  今回も質問でコラムを終わらせます。前回の質問はまだ覚えているでしょうか。中国語では「ショート動画を見た?」を表すとき、なぜ「 “刷”短視頻」と言うのですか。それはスマホと関係があります。スマホを使うとき、指でスクリーンを「こする」のですね。ですから、「スマホを使う」ときは普通「刷手机」といいます。スマホのアプリでショート動画を見るときも「刷」という動詞を使うのです。

  今回の質問です。なぜ中国語では「光伏」という言葉で「太陽光発電」を表すのか。特に「伏」とはどういう意味でしょう。

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