2005年1月9日(日)に開催された長崎県生物学会第34回大会にて、竹村暘先生(長崎大学水産学部教授)による講演『大村湾のスナメリ』が行われました。

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スナメリとは:
 私たちの最も身近にいる鯨、それがスナメリです。鯨というと、まず、上・下顎に層状に並ぶ板状の篩(クジラヒゲ)を持つヒゲ鯨類がそうぞうされ、大きな動物のイメージが強いのですが、人と同じ程度の小さな鯨もおります。体長4〜5m以下の小さな鯨はどれも多くの歯を持っており、一般にイルカと呼ばれています。スナメリは最も小さなイルカの一つです。

分布と生息数:
 スナメリは日本からペルシャ湾に至るアジアの沿岸に広く生息しています。しかし、その生息域は沿岸域に限られています。また、かなりの距離河川を上ることもあり、淡水域でも生息しています。我が国では仙台から東京湾に至る海域、三河湾、瀬戸内海から玄界灘に至る海域、有明海・橘湾から不知火海、そして、大村湾の五つの海域に生息域が分断されています。それぞれの海域間での交流が長期にわたって行われなかった結果、それぞれの系群ごとに形態や生態にも違いが指摘されるようになっています。
 大村湾に生息するスナメリはその中で個体数が最も少なく、200〜300頭と系群を維持出来るかどうか心配されており、近くの有明海の系群とも形態・生態に違いがみられます。また、極めて沿岸近くに生息するため、人間活動との競合が多く、特に沿岸漁業への影響や漁具での混獲といった問題が生じやすい点で、今後保護の必要性が叫ばれるようになる可能性が高いと思われます。

形態と生態:
 群を形成して移動し、身体を大きく水面から出して呼吸し、独特の水しぶきを上げる種もいるなど、多くのイルカ類の発見は容易に行われます。しかし、スナメリは単独または数等で行動し、浮上の際にもほとんど水面を乱さず、まるで船の引き波のようであり、背鰭もないため極めて発見の難しいイルカです。このため、わりと身近に生活しているにもかかわらず、目に触れる機会は多くはありません。背鰭の代わりに他のイルカには見られない小さな隆起が無数点在していますが、その役割については明らかにされていません。神経末端がそれぞれの隆起に伸びているところを見ると、何らかの感覚器官の働きをしているのかもしれません。よく、この部分を他個体と擦りあわせたり、母親が仔獣を乗せるのが観察されていることから他個体との接触に重要な働きをしているのではないかと考えられています。

行動:
 鯨類の頚椎は7つの内いくつかは癒合して動かなくなっています。スナメリでも3〜4個の頚椎は癒合しており、残りの頚椎も薄い板のようになっています。従って、頚椎をねじったり曲げて頭を振ることは困難です。ところが、イルカ類の中でもスナメリは最も身体の柔らかく、頭を大きく曲げることが可能です。そこで、頭部の向きを餌魚に固定しながら急旋回して捕捉することも可能になります。こうして小型の魚類(キビナゴ・コノシロ・カタクチイワシ)やイカ類を器用に捕捉しています。その他、エビ・カニ類も利用しています。こうした餌生物を捉えるための歯はシャモジ状で、先端部分がわずかに露出している程度です。犬歯状の他のイルカに比べて餌生物を捕捉するのが難しそうで、どうしてこのような形態になったのか興味のあるところです。
 イルカ類についての夜間の行動はほとんど分かっていませんが、夜中も群をなして移動しているのが報告されています。定住性のイルカでも、昼間は時折滞留して動きが乏しくなりますが、休むことなく移動を繰り返しています。夜間、水族館のイルカはほとんど動かずに浮いた状態でじっとしていることが多いのですが、自然のイルカは常に動き回っているようです。スナメリも夜間の行動は不明ですが、日中は餌を求めてゆっくり移動しています。数回の浅い潜水の後、深い潜水という潜水パターンを繰り返しており、深潜水に索餌等が行われているようです。

音響生態:
 イルカl類は一般に三種の音を利用していると言われています。しかし、スナメリの場合、クリック音の使用が中心で、他の音の利用がほとんど見られません。クリック音は周囲を探知するためのもので、他個体との更新や接触に伴う音の利用はほとんどありません。これは大きな群を形成しないことと関係していると思われます。
 クリック音の機能については、他のイルカに比べても遜色ないものです。100kHz以上の超音波を用いて標的の微妙な大きさや材質の違いを的確に識別しています。

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講演要旨

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『大村湾のスナメリ』
講演