障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例 平成30年度活動報告書 令和元年6月 長崎県福祉保健部障害福祉課 はじめに 本県では、障害のあるなしにかかわらず、誰もが社会を構成する一員として、あらゆる社会活動に参加できる共生社会の実現を目指して、障害のある人に対する差別を禁止し、差別をなくすための施策を推進するための事項を定めた、「障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例」を制定しています。 この報告書は、条例全面施行から5年目にあたる平成30年度、1年間の相談活動実績をまとめたものです。 相談窓口にどのような相談が寄せられ、問題の解消のために何が求められているのかを県民の皆様に知っていただくことで、障害のある人に対する差別をなくし、共生社会を実現するためにできることは何なのか考えていただくきっかけになればと思います。   目次 T 条例の仕組み 1 条例の目的 2 障害のある人とは 3 差別の禁止 4 相談体制 5 問題解決のための調整機関 6 問題解決までの流れ U 相談活動の実績 1 相談者 2 相談方法 3 相談分類 4 相談分野 5 対応方法 6 活動回数 7 連携 8 圏域別の相談件数 V 相談事例 T 条例の仕組み                                   1  条例の目的 この条例は、障害や障害のある人に対する県民の理解を深め、障害のあるなしにかかわらず、誰もがあらゆる社会活動に参加できる共生社会の実現を目指しています。   2 障害のある人とは 身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病を原因とする障害など心身の機能の障害があり、これらの障害と社会的障壁によって、継続的又は断続的に日常生活や社会生活に相当な制限を受ける状態にある人を「障害のある人」と規定しています。            3 差別の禁止 不均等待遇を行うこと 不均等待遇とは、障害や障害に関することを理由として、区別、排除、制限したり、条件を課すなど、障害のない人と異なる取扱いをすることです。特別な事情がないのに不均等待遇を行うことは差別に当たります。 合理的配慮を怠ること 合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と同等に権利を行使したり、同等の機会や待遇を受けるために必要な現状の変更や調整を過度な負担が生じない範囲で行うことです。障害のある人の求めがあった場合に、特別な事情がないのに合理的配慮を怠ることは差別に当たります。 4 相談体制 差別に関する相談窓口として、各市町に地域相談員を177名(平成31年3月31日現在)、長崎県障害福祉課内に広域専門相談員を2名配置しています。相談を受けた地域相談員と広域専門相談員は、当事者それぞれの話を十分に聴き、問題解決に向けて取扱方針を決定し、その方針に基づき連携して対応します。地域相談員は、各市町が委嘱している身体障害者相談員・知的障害者相談員・精神保健福祉相談員で承諾が得られた方に委託しています。 地域相談員の内訳(平成31年3月31日現在) 長崎市11名(身体5名、知的4名、精神2名) 佐世保市17名(身体13名、知的4名) 島原市4名(身体1名、知的3名) 諫早市14名(身体8名、知的4名、精神2名) 大村市9名(身体5名、知的2名、精神2名) 平戸市11名(身体7名、知的4名) 松浦市10名(身体8名、知的2名) 対馬市7名(身体3名、知的4名) 壱岐市10名(身体7名、知的3名) 五島市16名(身体8名、知的6名、精神2名) 西海市11名(身体7名、知的4名) 雲仙市13名(身体6名、知的7名) 南島原市17名(身体10名、知的5名、精神2名) 長与町5名(身体5名) 時津町3名(身体2名、知的1名) 東彼杵町2名(身体2名) 川棚町4名(障害区分なし) 波佐見町3名(身体2名、知的1名) 小値賀町0名 佐々町2名(身体1名、知的1名) 新上五島町8名(身体3名、知的3名、精神2名) 相談員数計177名(身体障害者相談員103名、知的障害者相談員58名、精神障害者相談員12名) 5 問題解決のための調整機関 地域相談員や広域専門相談員による問題解決が困難な場合は、障害のある人やその関係者からの申し立てにより、「障害のある人の相談に関する調整委員会」(以下、「調整委員会」という。)が助言やあっせんを行います。調整委員会は、申立てのあった事案について専門的な見地から公正・中立な判断をし、当事者双方の事情や意見を検証して、解決に向けた助言やあっせんを行います。 6 問題解決までの流れ 差別に関する問題が発生したら、県の相談窓口である地域相談員又は広域専門相談員が相談を受け付けます。相談員が調査や調整等を行い問題の解決を図ります。相談員による解決が困難な場合は、申立てにより調整委員会による助言・あっせんを行い解決を図ります。特に悪質な差別があったと思われる事案を解決するための手段として、知事による勧告・公表を用意しています。 U 相談活動の実績                                 1 相談者 相談者と障害区分 (本人)肢体不自由3件、視覚障害4件、聴覚障害3件、知的障害2件、精神障害4件、難病3件、その他1件、計20件 (家族)肢体不自由1件、知的障害5件、精神障害1件、その他1件、計8件 (支援関係者)視覚障害2件、聴覚障害1件、知的障害2件、精神障害1件、発達障害1件、難病3件、その他3件、計13件 (友人・知人)0件 (その他)聴覚障害2件、その他2件、計4件 (計)肢体不自由4件、視覚障害6件、聴覚障害6件、内部障害0件、知的障害9件、精神障害6件、発達障害1件、難病6件、その他7件、計45件 ※区分については、相談者に確認して分類しています。 相談者は、障害のある「本人」が20件(44%)と最も多くなっています。次いで、「支援関係者」が13件(29%)、「家族」が8件(18%)でした。「その他」の4件(9%)は、行政職員からの相談が3件と、匿名の相談で特定できないものが1件でした。障害区分では、「身体障害」が計16件と最も多く、次いで「知的障害」が9件、「精神障害」と「難病」が6件、「発達障害」が1件となっています。「その他」の7件は、障害全般に関わる相談が3件と、障害区分に係る情報が不明で分類できないものが4件でした。今年度は、「友人・知人」からの相談はありませんでした。 2 相談方法 障害のある人に対する差別に関する相談は、電話、面談、手紙、ファックス、メールにより受理しています。相談は、障害の特性や状況に合わせて相談者が伝えやすい手段でできるようにしていますが、電話による相談が40件と大半を占めています。 受付時の相談方法 電話40件、面談2件、手紙0件、ファックス1件、メール2件、計45件 3 相談分類 平成30年度、1年間に相談窓口に寄せられた相談は45件でした。結果として、「差別に関する相談(特定相談)」が2件(不均等待遇1件、合理的配慮の欠如1件)、「その他の相談」が43件でした。今年度から「その他の相談」を、以下(※2)のように分類しています。 相談分類別の件数 主訴として、不均等待遇8件、合理的配慮の欠如8件、不適切な行為2件、不快・不満6件、意見・要望5件、問い合わせ14件、傾聴事案2件、計45件でした。結果として、不均等待遇1件、合理的配慮の欠如1件、不適切な行為6件、不快・不満11件、意見・要望7件、問い合わせ14件、傾聴事案5件、計45件でした。 ※1 平成30年度に調整委員会へ申立てが行われた事案はありませんでした。 ※2 相談分類項目の定義 「不適切な行為」条例の不均等待遇、合理的配慮の欠如には該当しないが、差別的・不適切な行為があったと考えられるもの。 「不快・不満」差別や不適切な行為があったとは判断できないが、相談者が差別と捉えて不快・不満の訴えをしているもの。 「意見・要望」条例や福祉制度、県への意見や要望に類するもの。 「問い合わせ」条例や福祉制度、合理的配慮の対応方法に関する問い合わせやリーフレットの提供依頼など。 「傾聴事案」相談者自身の気持ちを聞いてもらいたいというものや、対応不要の意思表示があったもの。 相談分類と障害区分 主訴 (不均等待遇)肢体不自由2件、視覚障害1件、聴覚障害1件、知的障害1件、精神障害2件、難病1件、計8件 (合理的配慮の欠如)視覚障害1件、聴覚障害2件、知的障害3件、精神障害1件、その他1件、計8件 (不適切な行為)視覚障害1件、難病1件、計2件 (不快・不満)視覚障害1件、知的障害3件、精神障害2件、計6件 (意見・要望)肢体不自由1件、知的障害1件、難病1件、その他2件、計5件 (問い合わせ)肢体不自由1件、視覚障害2件、聴覚障害3件、発達障害1件、難病3件、その他4件、計14件 (傾聴事案)知的障害1件、精神障害1件、計2件 (計)肢体不自由4件、視覚障害6件、聴覚障害6件、内部障害0件、知的障害9件、精神障害6件、発達障害1件、難病6件、その他7件、計45件 結果 (不均等待遇)肢体不自由1件、計1件 (合理的配慮の欠如)視覚障害1件、計1件 (不適切な行為)視覚障害1件、聴覚障害2件、知的障害1件、難病1件、その他1件、計6件 (不快・不満)肢体不自由1件、視覚障害1件、聴覚障害1件、知的障害5件、精神障害2件、難病1件、計11件 (意見・要望)肢体不自由1件、視覚障害1件、知的障害2件、難病1件、その他2件、計7件 (問い合わせ)肢体不自由1件、視覚障害2件、聴覚障害3件、発達障害1件、難病3件、その他4件、計14件 (傾聴事案)知的障害1件、精神障害4件、計5件 (計)肢体不自由4件、視覚障害6件、聴覚障害6件、内部障害0件、知的障害9件、精神障害6件、発達障害1件、難病6件、その他7件、計45件 「差別に関する相談(特定相談)」で、結果として「不均等待遇」に分類される相談は、障害区分の「身体障害(肢体不自由)」で1件、「合理的配慮の欠如」に分類される相談は「身体障害(視覚障害)」で1件ありました。主訴として「不均等待遇」「合理的配慮の欠如」に分類される相談は、合計16件ありましたが、事実確認などの結果から「不適切な行為」や「不快・不満」に分類されるものや、条例による調整を望まないことから傾聴事案に分類されるものなどがありました。 4 相談分野 条例では、日常生活や社会生活での10の個別分野における差別行為の禁止を特に定めています。 (差別の禁止が規定されている10の個別分野) 福祉サービスの提供、医療の提供、商品及びサービスの提供、労働及び雇用、教育、建築物の利用、交通機関の利用、不動産取引、情報の提供等、意思表示の受領 相談分野と障害区分は、主訴が「不均等待遇」・「合理的配慮の欠如」の「差別に関する相談(特定相談)」の16件を相談の分野で分類したものです。 相談分野と障害区分 (福祉サービスの提供)肢体不自由1件、知的障害2件、計3件 (医療の提供)知的障害1件、難病1件、計2件 (商品及びサービスの提供)聴覚障害1件、精神障害1件、計2件 (労働・雇用)0件 (教育)0件 (建築物の利用)その他1件 (交通機関の利用)肢体不自由1件、計1件 (不動産取引)0件 (情報の提供等)視覚障害1件、聴覚障害2件、計3件 (意思表示の受領)0件 (その他)視覚障害1件、知的障害1件、精神障害2件、計4件 (計)肢体不自由2件、視覚障害2件、聴覚障害3件、知的障害4件、精神障害3件、難病1件、その他1件、計16件 10分野別の相談件数 福祉サービスの提供3件、医療の提供2件、商品及びサービスの提供2件、労働及び雇用0件、教育0件、建築物の利用1件、交通機関の利用1件、不動産取引0件、情報の提供等3件、意思表示の受領0件、その他4件、計16件 その他の4件については、家族間のトラブルや自治会とのトラブルなどの私人間の問題、行政職員の対応に関する相談などがありました。 5 対応方法 対応と相談分野 主訴が「不均等待遇」・「合理的配慮の欠如」の「差別に関する相談(特定相談)」の16件の対応を相談分野別に分類したものです。 (相手方との調整)医療の提供1件、商品及びサービスの提供1件、交通機関の利用1件、計3件 (事実確認等)福祉サービスの提供1件、医療の提供1件、商品及びサービスの提供1件、情報の提供等2件、その他1件、計6件 (関係機関引継ぎ)福祉サービスの提供1件、建築物の利用1件、その他1件、計3件 (助言)情報の提供等1件、その他2件、計3件 (相談窓口の紹介)0件 (情報提供・資料送付)0件 (傾聴主体)0件 (その他)福祉サービスの提供1件 (計)福祉サービスの提供3件、医療の提供2件、商品及びサービスの提供2件、労働及び雇用0件、教育0件、建築物の利用1件、交通機関の利用1件、不動産取引0件、情報の提供等3件、意思表示の受領0件、その他4件、計16件  ※「事実確認等」相手方との調整には至らなかったが、相手方や関係機関の事実確認や調査を要したもの。昨年度までは「その他」に分類。 差別に関する相談についての対応は、全体として「相手方との調整」・「関係機関引継ぎ」・「助言」が3件、「事実確認等」が6件でした。「相手方との調整」3件の相談分野別の内訳としては、「医療の提供」・「商品及びサービスの提供」・「交通機関の利用」で各1件でした。 対応と相談分類(結果)の関係 次の表は、相談に対する対応状況について、相談分類と対応の関係を表したものです。相談者の同意に基づき、相手方や関係者から聴き取り調査を行い、双方の意向を確認した後に条例における対応方針を決定し、調整や対応を行っています。 (相手方との調整)不均等待遇1件、不適切な行為2件、計3件 (事実確認等)合理的配慮の欠如1件、不適切な行為1件、不快・不満5件、傾聴事案2件、計9件 (関係機関引継ぎ)不適切な行為2件、不快・不満1件、意見・要望3件、計6件 (助言)不快・不満4件、意見・要望1件、問い合わせ5件、計10件 (相談窓口の紹介)問い合わせ1件、計1件 (情報提供・資料送付)問い合わせ8件、計8件 (傾聴主体)不適切な行為1件、不快・不満1件、意見・要望2件、傾聴事案3件、計7件 (その他)意見・要望1件、計1件 (計)不均等待遇1件、合理的配慮の欠如1件、不適切な行為6件、不快・不満11件、意見・要望7件、問い合わせ14件、傾聴事案5件、計45件 「差別に関する相談(特定相談)」の2件は、「相手方との調整」と「事実確認等」が各1件でした。「合理的配慮の欠如」で「事実確認等」の対応で終結している1件は、調整は望まないが県で事実確認をしてほしいという相談でした。「不適切な行為」6件についての対応は、「相手方との調整」と「関係機関引継ぎ」が2件、「事実確認等」と「傾聴主体」が1件でした。「不快・不満」11件についての対応は、「事実確認等」が5件、「助言」が4件、「関係機関引継ぎ」と「傾聴主体」が1件でした。「意見・要望」7件についての対応は「関係機関引継ぎ」が3件、「傾聴主体」が2件、「助言」と「その他」が1件でした。「問い合わせ」14件についての対応は、「情報提供・資料送付」が8件、「助言」が5件、「相談窓口の紹介」が1件でした。「傾聴事案」5件についての対応は、「傾聴主体」が3件、「事実確認等」が2件でした。 6 活動回数 対応ごとの活動回数 (相手方との調整)3件、活動回数52回、平均回数17.3回 (事実確認等)9件、活動回数69回、平均回数7.7回 (関係機関引継ぎ)6件、活動回数25回、平均回数4.2回 (助言)10件、活動回数15回、平均回数1.5回 (相談窓口の紹介)1件、活動回数3回、平均回数3.0回 (情報提供・資料送付)8件、活動回数8回、平均回数1.0回 (傾聴主体)7件、活動回数9回、平均回数1.3回 (その他)1件、活動回数5回、平均回数5.0回 活動回数(対応回数)は、事案や対応方法によって大きな差がありますが、平均すると4.1回となりました。「相手方との調整」や「事実確認等」などの対応は、複数の機関と連携して対応にあたることが多いため活動回数(対応回数)が増加する傾向がありました。また、相談件数は昨年度(43件)より2件増加とあまり変化はありませんでしたが、相談内容が多様化・複雑化の傾向にあり、全体の活動回数は、昨年度(90回)より大きく増加しています。 7 連携 多機関との連携 問題解決のために、必要な場合には、他の機関等と連携を図って対応を行っています。対応をしていく中で、他機関等と連携し解決に至った件数は、21件でした。主な連携先は、県の他部局・担当課、市町の担当課、障害者団体、障害福祉事業所などです。複数の機関と連携を図った事案もありました。 地域相談員との連携 相談活動 地域相談員が「差別に関する相談」を受けた際は、広域専門相談員と連携して問題の解決を図っています。地域相談員が相談を受けて解決をした事案は1件、地域相談員自身の相談で広域専門相談員に対応を依頼した事案は3件でした。 地域相談員研修会 平成30年度から、障害のある人への理解促進のための研修と併せて地域相談員研修を実施しています。理解促進のための研修には行政関係者や事業者などにも参加を呼びかけ、県内4地区で4回の研修会を開催しました。 相談員通信 地域相談員と広域専門相談員の連携の一助として、相談員通信を年に1回発行しています。内容は、相談実績データ、条例に関する時事の話題、相談対応時に留意したいことなどについて掲載しました。 8 圏域別の相談件数 相談者の居住地域を障害保健福祉圏域(10圏域)で分類しています。 圏域別相談件数 長崎圏域15件、西彼圏域4件、県央圏域7件、佐世保圏域9件、県北圏域0件、県南圏域4件、五島圏域3件、上五島圏域0件、壱岐圏域0件、対馬圏域0件、その他3件、合計45件 圏域別の相談件数については、「長崎圏域」が15 件と最も多く、「佐世保圏域」が9件、「県央圏域」が7件、「西彼圏域」・「県南圏域」が4件、「五島圏域」が3件でした。「その他」の3件は、匿名の相談で相談者の居住地域が特定できないものです。 V 相談事例 寄せられた相談について、個人情報保護の観点から、内容を一部変更するなど再構成をしたうえで、事例として掲載しています。 1 交通機関の利用 相談者 下肢に障害があり車椅子を利用するAさん Aさんは、高速バスの予約センターへ電話をして、車椅子利用で乗車予約をしようとしたところ、「バスの乗降の際に介助者をつけないと予約ができない」と言われました。Aさんは、車椅子をトランクルームに積み込んでもらえたら、バスの乗降は介助がなくてもできることを説明しましたが、「介助者がいないと予約はできない」と、予約センターの答えは変わりませんでした。 ※一般的な高速バスは、下に荷物が積めるよう座席フロアが高くなっており、乗降扉から座席までの通路に階段があります。 (問題点) バス事業者は、車内事故防止のために、車椅子利用者に対し、一律に介助者の同伴を求めていました。 (対応と結果) バス事業者との調整の結果、Aさんのケースでは介助者なしでも乗車できるようになりましたが、乗降に介助者が必要な人の対応については今後検討が必要な課題です。 (広域専門相談員から) 条例では、特別な事情がなく、障害を理由として、公共交通機関の利用を拒んだり、制限したり、条件を付けることは差別にあたると規定しています。障害のある人が公共交通機関を利用する際の介助等については、障害のある人の状況によって個別の対応が求められる問題です。介助が必要な実際の場面では、運転士ひとりで安全な乗降介助を行うことが困難な場合もあるかもしれません。同乗している利用者に協力が呼びかけられたときは、ご理解とご協力をよろしくお願いします。 2 医療の提供 障害当事者 知的障害のあるBさん 相談者 当事者が利用する障害福祉事業所職員 Bさんはヘルパーの付き添いで、検診のため病院を受診しました。想定していたよりも検診に時間がかかることがわかり次の業務の都合があるため、ヘルパーはBさんに事情を説明した上で、病院職員に付き添いを途中で抜けて検診が終わるまでに迎えに来ることを伝えると、「付き添いがいないのなら検診はできない」と言われました。Bさんは検診を受けることを諦めざるを得ませんでした。 (問題点) 病院側とヘルパー間でBさんの障害の程度や理解力について認識の差があり、検診の際にどのような支援が必要なのかが共有されていませんでした。 (対応と結果) 相談を受けた後に双方へ事実確認をしたところ、Bさんとヘルパーは事前に病院に確認したうえで検診を受けていたことがわかりましたが、検査にかかる時間や当日の見通しを病院側から説明していませんでした。また、病院側は障害のある人に対し、一律に付き添いを求めている訳ではなく、Bさんのケースでは一部の検査は日頃から支援をしている人に付き添ってもらわないとBさんが不安になるのではないかという理由があったことがわかりました。病院側には差別の意図はありませんでしたが、結果的にBさんが不利益を被ることになったということで、病院では今回の事例を問題提起として、障害のある患者さんへの対応についての取り組みを考えることになりました。 (広域専門相談員から) 条例では、特別な事情がなく、障害を理由として、医療の提供を拒んだり、制限したり、条件を付けることは差別にあたると規定しています。Bさんのケースは、病院側の説明不足もありますが双方のコミュニケーションが不足していたことから起きた問題であると考えられます。医療機関側と障害当事者側が歩み寄り、理解を深めていくことが必要です。 3 情報の提供等 相談者 視覚障害があるCさん Cさんは視覚障害があるため、必要な情報は点字資料や音声情報から得ています。Cさんの住む自治体では、選挙の情報が、通常の印刷物でしか配布されていませんでした。Cさんは、必要な情報を得ることができず、視覚障害のある人に対する情報保障がなされていないと考え、選挙管理委員会へ連絡をしたところ、「点字にして送付しましょうか」という回答があったものの、最初から配慮をするべきであったのではないかと思いました。 (問題点) Cさんの住む自治体では、選挙の情報を通常の印刷物でしか提供されていませんでした。選挙の情報のように、公共性・社会性の高い情報は、点字版や音訳版など様々な形で提供し、障害の有無に関わらず情報が行き渡るようにする工夫が必要です。 (対応と結果) Cさんの自治体や県議会選挙、国政選挙の情報(選挙公報)の提供方法について調査し、情報保障がされていないケースに対しては対応を検討してもらえるよう依頼しました。 (広域専門相談員から) 条例では、障害のある人からの申し出があった後の措置である合理的配慮については規定されていますが、事前的改善措置の規定は設けていません。しかし、選挙の情報だけに限らず、障害のある人の社会参加を促進するために、情報分野でもあらかじめ社会的障壁を除去するための環境整備を積極的に推進することが望まれます。選挙公報においては(参考)にあるように、選挙期間が短く、点訳などでの情報提供が困難な状況があるようなので、代替手段の検討も必要です。 (参考)長崎県内の選挙情報の提供について 国政選挙 点訳・音訳版の「選挙のお知らせ」を市町・関係機関に配布。告示から投票までの選挙期間は衆議院で12日、参議院で14日間。 県議会選挙 選挙期間が9日間と短く、候補者も多いため選挙公報の点訳・音訳に対応できていない状況。 市・町議会選挙 選挙期間が市で7日、町で5日と短く、点訳・音訳での情報提供に対応することが困難な状況。 4 商品及びサービスの提供 相談者 聴覚障害のあるDさん Dさんは大型二輪の免許を取得するために、X自動車学校へ入校手続きに行き、入校申込書を提出しました。後日、X自動車学校から、「安全管理上の問題で受け入れができないので、入校受付を見送らせていただく」という連絡がありました。納得できないDさんは、再度X自動車学校へ行き、耳が聞こえなくても、筆談や口話でコミュニケーションがとれることを説明しましたが、「二輪と四輪の混合教習で、指示伝達はヘルメットのスピーカーを通して行う状況で設備の問題や事故の危険性などがあり、受け入れはできない」と断られました。Dさんは、その後、別の自動車学校に入校することができましたが、X自動車学校では、結局は障害を理由に断られたのではないかと思いました。 (問題点) X自動車学校では、二輪の教習については、これまで聴覚障害のある人の受け入れをしたことがありませんでした。平成19年の道路交通法の改正後、聴覚障害のある人が取得できる運転免許の種類は大型二輪を含め、拡大しています(聴覚障害者標識の表示や特定後写鏡の取付けなどの条件付)。 (対応と結果) X自動車学校側と調整を行いましたが、X自動車学校では設備や人員、安全管理上の問題から受け入れは難しいという結論でした。 (広域専門相談員から) Dさんのケースでは、自動車学校側がDさんを受け入れるために必要な、現状の調整や変更を行う合理的配慮の提供を検討されたのかがポイントです。合理的配慮の提供にあたって、人員の増員・設備の改修が必要である場合や、安全性の確保といった部分が過度な負担になるのかということも議論の対象になります。今回の相談を受けて、県内の自動車学校へ聴覚障害の ある人への対応状況を調査したところ、四輪については多くの自動車学校で受け入れをしていましたが、二輪の教習についてはDさんのケースと同様の理由で対応が難しいという回答が大半でした。教習や試験場、免許取得時の情報・コミュニケーション保障はもちろんのこと、自動車学校全体として聴覚障害のある人の運転免許取得のサポートについて考えていく必要があるのではないでしょうか。 5 建築物の利用 相談者 車椅子を利用するEさん Eさんは車椅子を利用しているため、車で外出する際は、車椅子で車に乗降するスペースのある身体障害者用駐車場が必要です。ある施設の身体障害者用駐車場を利用しようとしたところ、事業用自動車が駐車してあり、利用することができませんでした。長崎県ではパーキング・パーミット制度(身障者用駐車場利用証制度)があるのに、まだまだ不適切な利用が多くあり、困ることが多い現状です。 ※パーキング・パーミット制度 身障者用駐車場について、歩行困難な利用対象者(身体障害者・高齢者・妊産婦等)に身障者用駐車場利用証を交付し、利用できる方を明確にすることで、適正利用を図る制度です。 (問題点) 身障者用駐車場についての認識が不足しており、一般駐車場に空きがなかったという理由などで障害のない人が駐車するなど、不適正な利用が依然としてあります。 (対応と結果) 事実確認を行い、駐車していた車が事業用自動車であったため、事業者に対し、パーキング・パーミット制度の説明をし、身障者用駐車場の適正利用の依頼を行いました。事業者から従業員へも身障者用駐車場の適正利用についての周知と指導がされることになりました。 (広域専門相談員から) 障害者用駐車場の利用に関する相談は、毎年のように寄せられています。合理的配慮の問題というよりは、利用者側の認識不足、マナー違反の問題であると考えられます。パーキング・パーミットなどの制度の周知と合わせて、身障者用駐車場をどのような人がどのような理由で必要としているのか、障害のある人への理解が深まるような取り組みを行っていきます。 6 その他(10分野以外)の相談 相談者 精神障害のあるFさん Fさんには兄弟がおり、子どもの頃から、父親のFさんと兄弟に対する態度には差があり、様々な面でFさんより兄弟を優遇していると感じたそうです。大人になり、過去の父親の態度は精神的な虐待であり差別で、自分の精神疾患もそこに原因があると考えるようになりました。離れて暮らしている現在でも、父親のFさんに対する態度は変わらないそうです。Fさんは、長年の苦痛を父親に知ってもらい、適切に対応してもらいたいと考えています。 (問題点) Fさんは家族間の問題で長年悩んでいます。そのため、精神疾患を患っていますが、家族からの適切な支援が受けられない状況です。 (対応と結果) 家族間の問題について、条例による調整の対象とすることは難しく、相談を傾聴したところ、福祉の支援も必要としていることがわかったため関係機関に引継ぎをして対応を依頼しました。 (広域専門相談員から) 条例では、何人も障害のある人に対して差別をしてはならないと規定しており、公的機関、企業や団体、個人など全ての人に対して「障害のある人に対する差別の禁止」を求めています。しかしながら、事業者等の社会的な枠組みが介在しない私人間の問題については、条例による調整の対象とすることは難しく、相談内容によって、適切な相談窓口を紹介したり、必要な支援が受けられるよう関係機関に対応を引き継いだりしています。 おわりに 本県では、平成26年4月1日に「障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例」を施行し、条例施行後4年目となる平成29年度は、前年度の活動経験も踏まえ、相談活動や条例の普及啓発に努めてきました。 また、国においては、平成28年4月1日から「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が施行されました。 本県の条例もこの法律も、全ての県民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現という目的は同じです。 今後も相談制度の適切な運営を図るとともに、法律と併せて、条例の更なる普及啓発に努めてまいります。 相談・問合せ先 長崎県福祉保健部障害福祉課 広域専門相談員  〒850-8570 長崎市尾上町3-1 電話 (095)895-2450 ファックス (095)823−5082 メール s04100@pref.nagasaki.lg.jp