障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例 平成26年度活動報告書 (長崎県福祉保健部障害福祉課) はじめに                        本県では、障害のあるなしにかかわらず、誰もが社会を構成する一員として、あらゆる社会活動に参加できる共生社会の実現を目指して、障害のある人に対する差別を禁止し、差別をなくすための施策を推進するための事項を定めた、「障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例」を制定しています。 この報告書は、条例が全面施行された平成26年4月1日から1年間の相談活動実績をまとめたものです。 相談窓口にどのような相談が寄せられ、問題の背景にはどのようなことがあったのかを県民の皆様に知っていただき、障害のある人に対する差別をなくすためにできることは何なのか考えていただくきっかけになればと思います。   目次 T条例の仕組み  1 条例の目的  2 障害のある人とは  3 差別の禁止  4 相談体制  5 問題解決のための調整機関  6 問題解決までの流れ U相談活動の実績  1 相談者  2 相談方法  3 相談分類  4 相談分野  5 対応方法  6 活動回数  7 連携  8 圏域別の相談件数 V相談事例  1 不均等待遇に関する相談事例  2 合理的配慮に関する相談事例  3 その他の相談事例 T条例の仕組み                                   1 条例の目的 この条例は、障害や障害のある人に対する県民の理解を深め、障害のあるなしにかかわらず、誰もがあらゆる社会活動に参加できる共生社会の実現を目指しています。 2 障害のある人とは 身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病を原因とする障害など心身の機能の障害があり、これらの障害と社会的障壁によって、継続的又は断続的に日常生活や社会生活に相当な制限を受ける状態にある人を「障害のある人」と規定しています。           3 差別の禁止 (不均等待遇を行うこと) 不均等待遇とは、障害や障害に関することを理由として、区別、排除、制限をしたり、条件を課すなど、障害のない人と異なる取扱いをすることです。特別な事情がないのに不均等待遇を行うことは差別に当たります。 (合理的配慮を怠ること) 合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と同等に権利を行使したり、同等の機会や待遇を受けるために必要な現状の変更や調整を過度な負担が生じない範囲で行うことです。障害のある人の求めがあった場合に、特別な事情がないのに合理的配慮を怠ることは差別に当たります。 4 相談体制 差別に関する相談窓口として、各市町に地域相談員を平成27年3月31日現在201名、長崎県障害福祉課内に広域専門相談員を2名配置しています。 相談を受けた地域相談員と広域専門相談員は、当事者それぞれの話を十分に聴き、問題解決に向けて取扱方針を決定し、その方針に基づき連携して対応します。 地域相談員は、各市町が委嘱している身体障害者相談員・知的障害者相談員・精神保健福祉相談員で承諾が得られた方に委託しています。     ・地域相談員の内訳(平成27年3月31日現在)  長崎市22名 佐世保市20名 島原市8名 諫早市15名 大村市10名 平戸市11名 松浦市12名 対馬市11名 壱岐市9名 五島市5名 西海市12名 雲仙市14名 南島原市18名 長与町5名 時津町3名 東彼杵町2名 川棚町3名 波佐見町3名 小値賀町1名 佐々町1名 新上五島町6名 計201名 ・相談員の区分 身体障害者相談員128名、知的障害者相談員60名、精神保健福祉相談員10名 5 問題解決のための調整機関 地域相談員や広域専門相談員による問題解決が困難な場合は、障害のある人やその関係者からの申し立てにより、「障害のある人の相談に関する調整委員会」(以下、「調整委員会」という。)が助言・あっせんを行います。 調整委員会は、申立てのあった事案について専門的な見地から公正・中立な判断をし、当事者双方の事情や意見を検証して、解決に向けた助言やあっせんを行います。 6 問題解決までの流れ 差別に関する問題が発生したら、県の相談窓口である地域相談員又は広域専門相談員が相談を受け付けます。相談員が調査や調整等を行い問題の解決を図ります。相談員による解決が困難な場合は、申立てにより調整委員会による助言・あっせんを行い解決を図ります。特に悪質な差別があったと思われる事案を解決するための手段として、知事による勧告・公表を用意しています。 U相談活動の実績                                 1 相談者と障害区分 ・ 相談者  本人37件(60%)、家族4件(6%)、支援関係者8件(13%)、友人・知人4件(6%)、その他9件(15%) ・ 障害区分  肢体不自由26件、視覚障害12件、聴覚障害2件、内部障害5件、知的障害3件、精神障害11件、発達障害1件、その他2件、計62件 相談者は、障害のある「本人」が37件と最も多くなっています。「その他」の9件は、障害のある人を雇用する事業所の人事担当者、学校関係者、一般の県民の方などからの相談の件数が含まれています。障害区分の「その他」には、障害のある人の状況全般に関しての相談の件数が含まれています。 2 相談方法 障害のある人に対する差別に関する相談は、電話、面談、手紙、ファックス、メールにより受理しています。次の表は、相談を受理した方法です。 ・ 受付時の相談方法  電話56件、面談5件、手紙1件、計62件 相談は、障害の特性や状況に合わせて相談者が伝えやすい手段でできるようにしていますが、電話による相談が56件と大半を占めています。     3 相談分類 条例が平成26年4月1日に全面施行され、1年間に相談窓口に寄せられた相談は62件で、年度内に終結した事案は60件でした。 その60件の内訳は、「差別に関する相談(特定相談)」が12件(不均等待遇2件、合理的配慮の欠如10件)、「その他の相談」が48件でした。 平成26年度に調整委員会へ申立てが行われた事案はありませんでした。 ・ 相談分類別の件数(平成27年3月31日現在、対応中であった事案2件は数に含まない。) 不均等待遇2件(3%)、合理的配慮の欠如10件(17%)、その他48件(80%)、計60件 「その他の相談」は、調整を望まない事案や相手方の特定が困難な事案、ご質問やご要望などです。   ・相談分類と障害区分の関係(平成27年3月31日現在、対応中であった事案2件は数に含まない。) (肢体不自由)不均等待遇1件、合理的配慮の欠如9件、その他15件、計25件 (視覚障害)その他12件、計12件 (聴覚障害)その他2件、計2件 (内部障害)合理的配慮の欠如1件、その他4件、計5件 (知的障害)その他3件、計3件 (精神障害)不均等待遇1件、その他9件、計10件 (発達障害)その他1件、計1件 (その他)その他2件、計2件   4 相談分野 条例では、日常生活や社会生活での10の個別分野における差別行為の禁止を特に定めています。 (差別の禁止が規定されている10の個別分野) 福祉サービスの提供、医療の提供、商品及びサービスの提供、労働及び雇用、教育、建築物の利用、交通機関の利用、不動産取引、情報の提供等、意思表示の受領 ・ 相談分野の分類  福祉サービスの提供3件、医療の提供3件、商品及びサービスの提供5件、労働及び雇用2件、建築物の利用8件、交通機関の利用3件、不動産取引2件、その他36件、計62件 10分野のうち、「建築物の利用」の分野が8件と最も多く、続いて「商品及びサービスの提供」の分野が5件となっています。「その他」の分野には、条例に関する意見・要望、様々な機関やサービスへの意見・要望、生活全般における不満、虐待と思われる事案などがありました。 5 対応方法 ・対応と相談分野の関係(平成27年3月31日現在、対応中であった事案2件は数に含まない。) (相手方との調整)商品及びサービス4件、建築物の利用6件、交通機関の利用1件、不動産取引1件、その他1件 計13件 (関係機関引継ぎ)福祉サービスの提供3件、建築物の利用1件、その他6件、計10件 (助言)不動産取引1件、その他7件、計8件 (情報提供・資料送付)医療の提供1件、労働及び雇用2件、交通機関の利用1件、その他11件、計15       件 (傾聴主体)商品及びサービス1件、交通機関の利用1件、その他11件、計13件  (その他)医療の提供1件、計1件    ・対応と相談分類の関係(平成27年3月31日現在、対応中であった事案2件は数に含まない。) (合理的配慮の欠如)相手方との調整9件、関係機関引継ぎ1件、計10件 (不均等待遇)相手方との調整2件、計2件 (その他)相手方との調整2件、関係機関引継ぎ9件、助言8件、情報提供・資料送付15件、傾聴主体13件、その他1件、計48件 「差別に関する相談(特定相談)」12件においては、全てが「相手方との調整」により事案の終結に至りました。「関係機関引継ぎ」と分類している1件においても、「相手方との調整」を行った後に、今後の対応も必要だったため、更に「関係機関引継ぎ」を行いました。 「その他の相談」においては、相談の内容によって、条例における考え方などを情報提供することや資料を提供することで終結した事案、話をお聴きしたことで気持ちが落ち着かれ終結した事案、「相手方との調整」を要する事案など様々な事案が含まれています。 6 活動回数 ・対応ごとの活動回数( 平成27年3月31日現在、対応中の事案2件は数に含まない。) (相手方との調整)13件、平均活動回数7回 (関係機関引継ぎ)10件、平均活動回数5.1回 (助言)8件、平均活動回数1.5回 (情報提供・資料送付)15件、平均活動回数1.6回       (傾聴主体)13件、平均活動回数1.1回 (その他)1件、平均活動回数1回 対応回数は、事案や対応方法によって大きな差がありますが、平均すると3.2回となりました。問題の解決・終結までに時間を要する事案や、複数の機関と連携した事案においては、活動回数(対応回数)が増加する傾向がありました。 7 連携 【他機関との連携】問題解決のために、必要な場合には、他の機関等と連携を図って対応を行っています。他機関等と連携し解決に至った件数は、17件でした。主な連携先は、県の他部局・担当課、市町の担当課、障害者団体、相談支援事業所などです。複数の機関と連携を図った事案もありました。 【地域相談員との連携】 (相談活動) 地域相談員が「差別に関する相談」を受けた際は、広域専門相談員と連携して問題の解決を図っています。地域相談員が相談を受け自ら調整し終結した事案は2件、地域相談員が相談を受け広域専門相談員が対応し終結した事案は2件、広域専門相談員が地域相談員に調査を依頼し、共に対応し終結した事案は1件でした。また、地域相談員自身の相談で、広域専門相談員に対応を依頼し、終結した事案は8件でした。 (地域相談員研修会) 県内10地区で延べ15回地域相談員研修会を開催し、条例や相談活動業務についての研修を行いました。 (相談員通信) 地域相談員と広域専門相談員の連携の一助として、相談員通信を年に2回発行しています。内容は、相談実績データ、条例に関する時事の話題、相談受付票の記入方法などを掲載しました。 8 圏域別の相談件数 相談者の居住地域を障害保健福祉圏域(8圏域)で分類しています。 ・圏域別相談件数  長崎圏域21件、県北圏域7件、県央圏域21件、県南圏域7件、五島圏域1件、上五島圏域2件、不明 3件、合計62件   V相談事例                                  寄せられた相談のうち、分野ごとに主なものについて、その内容、解決に至るまでの経緯を記載しています。また、対応に当たった広域専門相談員のコメントも添えています。 1 不均等待遇に関する相談事例 (1)建築物の利用の事例 (事例)緑地公園における電動車いすの使用    (相談者)公園管理者 (相談内容)公園管理事務所の職員が、電動車いすで芝生内に立ち入った人に、芝生が傷むとの理由で芝生内からの退去を求め、後日、関係者から抗議を受けた。単独の電動車いすでは立入りが危険な箇所があり、安全性の問題も踏まえ、どのように対応したらよいか。 (対応)現地を確認のうえ、公園管理者と面会、条例の趣旨と相談内容を説明し、適切な対応を依頼した。    (結果)電動車いすの使用を理由に公園の利用を拒否することは不均等待遇に当たり、電動車いすでの公園の芝生内への立入り可能とすべきということで、相談者の理解を得た。危険箇所への立入りについては、管理事務所職員から声かけを行い、注意喚起を行うことで対応することとした。 【コメント】本件については、公園の管理責任と利用者の安全性の確保を考慮しながら調整しました。公園管理者側にも条例の趣旨を理解していただき、現場職員の方にも周知徹底を図っていただきました。この相談は、実際に芝生内への立入りを拒否された方からの相談ではないため、この対応が電動車いす使用者の望む対応だったかという確認ができていません。しかし、電動車いすでの立入りを一律に禁止していた公園が、管理者の理解もあり、立入可能となったものであり、大きな前進と考えています。    2 合理的配慮に関する相談事例 (1)商品及びサービスの提供の事例 (事例)宅配サービス (相談者)身体障害のある人(肢体不自由) (相談内容)宅配サービスの利用を申し込んだが、冷たい態度で断られた。障害のために外に出ることが困難で、本当にサービスを利用したい人の希望が受け入れられるように申し入れをしてほしい。 (対応)担当者から聴き取り調査を行い、条例の趣旨と相談内容を説明し、対応を依頼した。 (結果)聴き取り調査により、宅配サービスができない理由は、坂道と段差の多い居住地の地形によるものであることが判明した。しかし、できる限り検討していきたいとの回答を得た。また、受付時の応対や、宅配できない地域もあることについての説明不足と、広告・宣伝の表示方法等を改善する意向が示された。 相談者に相手方の意向を伝えると了承され、障害を理由とした拒否ではないことに安心されたため終結となった。  【コメント】相談者は当初、「嫌な思いをした」という感情を強く表されていました。問題は何なのかを把握するために、相談者からよく話を聴いて詳細を整理し、また、相手方からも状況を聴取して、当事者それぞれの意見を十分聴いて対応しました。この条例は、障害のある人のみを対象としているという観点から捉えるものではなく、事故や加齢によって、誰もが障害を有することとなる可能性があることから、障害のない人も含めた全ての人にかかわる問題として認識し、障害の有無にかかわらず共に安心して生き生きと暮らせる社会(共生社会)を実現する必要があるという観点から捉えることが大切です。   (2)建築物の利用の事例 (事例)エレベーターの停止階設定の変更 (相談者)身体障害のある人(肢体不自由)    (相談内容)用務先事業所のあるビルの2階に、エレベーターが停止しない設定で、車いすを使用して訪問ができないため、2階に停止するよう設定を変更してほしい。 (対応)ビル管理担当者及び用務先担当者に、条例の趣旨と相談内容を説明し、対応を依頼した。    (結果)用務先事業所とビル管理会社との契約により、2階に停止しないことになっており、設定を変更するためには費用面の負担が生じることが判明した。事業所から、訪問前に連絡があればビル1階の管理組合事務所で対応を行うことが提案され、相談者の理解を得たことから終結とした。 【コメント】相談者は、エレベーターを2階に停止させることを希望されていましたが、それは困難だったため、1階で対応するという代替案の提案がされました。合理的配慮は、求められる具体的な場面や状況が異なり、障害の特性も多様であるため、個別性の高いものです。障害のある人の状況を考えるとともに、合理的配慮を求められた側の可能な範囲で対応方法を検討していくことが大切で、双方の相互理解を通して柔軟に対応することが求められます。 (3)建築物の利用の事例 (事例)使いづらいスーパーの出入口    (相談者)身体障害のある人(肢体不自由) (相談内容)日頃から利用しているスーパーの出入口2箇所がいずれも自動ドアでないため、大変に使いづらい思いをしている。他の障害のある人も同様な意見を持っており、店舗側に申し入れをしてほしい。 (対応)現地を確認のうえ、店舗責任者と面会、条例の趣旨と相談内容を説明し、対応を依頼した。 (結果)店舗側からは、店舗の老朽化や予算面の問題もあり、直ちに自動ドアへの交換は難しいが、それに変わる対応を行いたいとの意向が示された。地域相談員に店舗の改善状況の調査を依頼し、「出入口付近の商品配置の見直し」などによって入店者へ配慮できるよう環境改善を行っていることが確認された。店舗側の改善状況、今後の意向を相談者に伝えたところ了承を得たことから終結とした。 【コメント】本件については、相手方から対応の代替案が提示されたこと、また、現地確認を地域相談員が行うなど広域専門相談員と連携して対応した事例で、今後の活動の参考になると考えています。自動ドアの設置は困難であっても、出入口付近の商品配置の見直しなどの代替案が提示され、相談者の不便を解消するために対応を検討していただき、相談者の満足を得られる結果となりました。なお、終結とした後、地域相談員から出入口の1箇所が自動ドアに改修されたとの報告がありました。 (4)建築物の利用の事例 (事例)段差等の解消 (相談者)身体障害のある人(車いす使用) (相談内容)日頃利用している建築物や駐車場を含む敷地内に段差があるため、車いすでは通行できない。スロープはあるが、歩道との接地面、建物との接地面に隙間や段差があるため、解消してほしい。 (対応)建築物の管理者に条例の説明を行い、要望を申し入れた。    (結果)管理者により、敷地内の段差の解消とスロープの改修工事が行われた。段差等が解消され、車いすを使用する人もスムーズに通行できるようになった。 【コメント】本件については、地域相談員自らが調整を行い終結した事例です。地域相談員の活動により、建物の管理者に条例の趣旨を理解していただき、建物の改修がなされたものと考えられます。本件のように地域相談員が特定相談に対応した件数はまだ少ないですが、障害のある人の身近な相談役である地域相談員の取組みは大切です。地道な活動を一つひとつ積み重ねていくことで、障害のある人に対する差別をなくしていきたいと考えています。 (5)交通機関の利用の事例 (事例)バス乗降時の補助    (相談者)身体障害のある人(肢体不自由) (相談内容)歩行時に折りたたみ式の歩行器を使用しているが、バス乗降時、歩行器の上げ下げの手伝いを頼んでも応じてくれないバス乗務員がいる。バス営業所に乗降時の手伝いをお願いしたいと申し入れたが、「乗務員に対する個人的な指導はできない。何度も続くようであれば、福祉タクシーや福祉バスを利用するよう」言われた。対応を改めてもらいたい。 (対応)バス会社に電話し、担当者に対して条例の趣旨とともに相談内容について説明し、対応を依頼した。 (結果)バス会社から、各営業所へ文書による対応の徹底を行う旨の回答があり、また、今後の対応改善に向けての意向も示された。バス会社の回答及び意向を相談者へ伝達し、了承を得たことから終結とした。 【コメント】障害のある人が自立した生活を送るうえで、交通機関を利用して買い物や病院へ行ったりすることなどは、欠かすことのできないことです。他にも、相手の言葉や態度に傷ついたという相談は多く寄せられています。意識上の障壁で制約を受けていると感じている障害のある方が多く、そのため、自立した生活や社会参加を実現できていない現状を認識しました。障害のある人とない人とが対等な関係となり、誰もが排除されることなく安心して共に生きていくことのできる社会(共生社会)を作っていくため、条例の周知とともに障害や障害のある人に対する理解を深めていくことの重要性を感じた事例でした。 (6)その他の事例 (事例)行政機関窓口担当者の不適切な言動    (相談者)身体障害のある人(肢体不自由) (相談内容)障害等級が変更になったことから、関係する手続きのために行政機関の窓口へ相談に行った。担当者の聴き取り調査の中で、障害者に対する差別的な言動があったので、職員に対する障害者対応の改善をお願いする。 (対応)担当した行政機関に対し、対応状況などについて確認した上で条例の内容を説明し、適切な対応を依頼した。 (結果)行政機関の窓口でも、この相談内容について把握しており、申請に伴い費用が発生することから障害程度の詳細な聴き取りが必要となり、誤解を与えたのかもしれないとの説明を受けた。今後は、対応する職員に対し、条例の周知徹底を図るとの回答があったことを相談者に伝え、納得を得たことから終結とした。 【コメント】行政機関の窓口を訪れる人は様々で、障害の有無や種別は容易に分かるものではありません。また、障害の種類は同じでも程度や症状は一人ひとり異なり、そのニーズも多様ですので、画一的でなく柔軟な応対が求められます。障害や障害のある人の理解を深め、障害の特性に応じた適切な対応を行う姿勢は、行政機関の職員として大事なことだと思います。 3 その他の相談事例 (1)商品及びサービスの提供の事例 (事例)大型娯楽施設における設備の利用 (相談者)身体障害のある人(視覚障害)    (相談内容)大型娯楽施設の設備が、押しボタン式からタッチパネル式に変更された。ボタンの配置を記憶して自分自身で操作できたのに、それができなくなったことは、視覚障害のある人に対する合理的配慮の欠如に該当するのではないか。 (対応)現地を確認のうえ、大型娯楽施設担当者と面会、条例の趣旨と相談内容を説明し、施設側の対応状況を確認した。 (結果)設備の変更に伴い、施設内に警備員や案内係を複数配置しており、障害のある人に対する一定の配慮がなされていることを確認した。押しボタン式の設備は現在製造されておらず、特注すると高額になることが判明した。障害のない人と同じように自分自身で操作できることが最良であるが、施設側が必要な配慮を行っていること、押しボタン式設備を再設置するためには高額の費用が必要になることなど相談者に説明したところ了承を得た。 【コメント】相談者は、誰の手助けも受けず、ひとりで機械を操作し、施設を楽しみたいと希望されていました。しかし、その希望通りに機械の入れ替えを行えば多額の費用がかかること、また、すでに施設側が行っている障害のある人への配慮は、相談者がその施設を利用する上では支障がないと判断しました。更なる合理的配慮を求める調整は、円満な解決のために適当ではないと判断したことについて、相談者の理解も得られ終結となった事例です。     (2)労働及び雇用の事例 (事例)障害のある人の雇用時の合理的配慮 (相談者)精神障害のある人を雇用する企業の人事担当者    (相談内容)体調不良で一定期間休職していた精神障害のある人が、短時間勤務で自分で限定した業務だけをすることを条件に、正社員として仕事に復帰したいと要望している。雇用する側として、どこまで配慮を行ったらいいのか教えてほしい。 (対応)障害のある人それぞれの状態や状況は異なるため、合理的配慮の範囲について一概に言うことはできない。条例においては、話し合いにより障害のある人の希望と雇用する側の対応可能な範囲の折り合うところを見つけていくことが好ましいとしている。お互いに過度な負担とならず、できる限り納得できるよう話し合うように助言した。 (結果)相談者は、実際には賃金の問題や、他の社員との調和の問題など難しい問題が多いと話されるが、条例における考え方は理解を得たことから終結とした。 【コメント】人事担当の相談者は、障害のある人の意思を尊重し、できる限りの配慮をして希望に沿う形態で受け入れたいという思いと、職場の他の社員への説明をどうしたらよいか悩まれていました。具体的な配慮を検討する際には、お互いの意見を伝えて話し合うことが重要です。このことがお互いの理解につながります。 (3)その他の事例 (事例)視覚障害のある人への配慮    (相談者)身体障害のある人(視覚障害)    (相談内容)ペットとして犬を飼っている人が、リードをはずして散歩させている。その犬が視覚障害のある人の足にまとわりついたため、向いている方向が分からなくなった。道にごみや空き缶が落ちていると障害物になる。空き缶の転がる音は、車が近づいてくる音が聞こえにくくし、危険を知らせる情報を遮ることになる。このような現状を地域で暮らす皆に知ってもらいたい。 (対応)傾聴した。 【コメント】本件については、相手方の特定が困難で調整ができなかったため、傾聴した事案です。障害のある人もない人も共に生きる共生社会を目指していく中で、障害のある人の立場からの要望を伝えていただくことによって気づくことが多くあります。実際に障害のある人が困っていることや、周囲の人に知ってほしいこと、心がけてもらいたいことを知ることで、自分にできることは何か考えるきっかけとなります。また、障害のある人とない人が一緒に話し合い、どのような対応ができるか考えていくことは、お互いに理解を深めていくことにつながります。このことは、特定相談の問題解決においても基本としていることです。      おわりに 本県では、平成26年4月1日に「障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例」を施行し、国においては、平成28年4月1日から「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が施行されます。本県の条例もこの法律も、全ての県民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現という目的は同じであり、今後は、法律と条例が相まって、より一層共生社会の実現への取組みが推進されていくものと考えています。 条例施行後2年目となる平成27年度は、前年度の活動経験も踏まえ、相談制度の適切な運営を図るとともに、条例の更なる普及啓発に努めてまいります。 【相談・問合せ先】 広域専門相談員 長崎県福祉保健部障害福祉課 〒850−8570 長崎市江戸町2−13 電話(095)895−2450 ファックス(095)823−5082 メール s04100@pref.nagasaki.lg.jp