長崎県立総合体育館 Nagasaki Sports Finder 

 スポーツ選手の体力総合診断 戻る 

1.基本的な考え方2.目 的3.システムの概要
4.体力測定の実施内容・項目5.システム・データの活用

 長崎県立総合体育館では、平成6年4月の開館以来、スポーツ科学を実践的に活用すること によって、長崎県スポーツ選手の競技力向上につなげることを目的に、「スポーツ選手の 体力総合診断システム」の普及・開発に取り組んでいる。
 なお、当体育館におけるシステムは、日本のスポーツ科学の先駆的存在であり、世界の 最先端にある財団法人スポーツ医・科学研究所によって開発され、国内外のトップアスリートを 対象に稼働している「スポーツ総合体力・技術診断システム」に倣い、導入を図ったものである。

1.基 本 的 な 考 え 方

 スポーツの競技成績を決定づける要因として、「体力」「技術」「戦術」「精神力」 「状況判断力」「コンディショニング」「体格」「環境対応能力」など、さまざまな要素が 考えられる。
 なかでも、「体力」は、スポーツの競技成績を決定づける代表的なものであると言える。 競技場面における「技術」「戦術」を十分に発揮するための土台となるのも、やはり「体力」 である。
 近年、スポーツ選手の体力は、3種類のエネルギー供給機構におけるエネルギーの生成能力と して捉えられることが多い。
 当体育館における「体力測定・診断システム」もまた、スポーツ生理学者Edward L.Foxにより 提唱された「エネルギー連続体」の理論に基づいている。
 3種類のエネルギー供給機構について、単位時間あたりのエネルギーの供給量(ATPの生成能力) とともに、単位時間あたりの身体の仕事量(パワー)を測定することによって、選手が持っている 身体の生理的機能を客観的に把握し、評価しようとする試みである。
2.目  的

 「スポーツ選手の体力総合診断」は、スポーツ選手の競技力を支える重要な要素の一つである「体力」をさまざまな観点から分析し、総合的に診断しようとするものである。
 「メディカルチェック」、「食生活診断」、「形態・身体組成診断」、「体力測定・診断」の4つの専門的分野から構成される総合的な取り組みをとおして、トレーニング・コンディショニングといったスポーツ現場での実践に、「スポーツ科学」の活用を図り、最終的に、選手・チームの競技力の向上につなげていくことを目指している。
 「スポーツ選手の体力総合診断」を実施する目的は、以下の3点に集約することができる。

(1) スポーツ選手と指導者に対して、スポーツの競技力を支える重要な要素である「体力」を客観的に評価するとともに、「体力」に関する必要な情報を提供することによって、選手・チームの現状に適した効果的なトレーニングの方向性を検討し、競技力の向上に資する。
(2) スポーツ選手と指導者に対して、医学、生理学、栄養学の各分野から、その専門性を活かして、スポーツ選手の能力を最大限に発揮しうる身体のコンディショニングに関する必要な情報を提供することによって、競技力の向上に資する。
(3) スポーツ選手と指導者に対して、「スポーツ科学」に関する必要な情報を提供することによって、正しい知識の普及を図り、競技者としての認識や自己管理力の向上に資する。
3.シ ス テ ム の 概 要

 「スポーツ選手の体力総合診断」システムの流れを<図I-1>に示した。
システムは、時間の経過に沿って、事前準備、当日、事後報告の3つの過程によって構成されている。

   

(1)第1過程:事前準備

 第1過程は、事前の情報収集及び整理・分析である。
 この過程では、選手に関するさまざまな情報の収集を行い、情報の整理・分析を行う。
 収集する情報は、選手の競技歴、メディカルチェック、問診、食生活調査(3日間の食事内容の記録・食習慣に関するアンケート)、年間活動計画、トレーニング実践記録等である。これらは、それぞれの調査用紙に筆記回答してもらい、2週間前までに回収を完了するようにしている。
 また、初回となる団体の指導者には、原則として来館いただき、事前オリエンテーションを実施している。
 実際にスポーツ科学管理棟の施設及び測定機器を見学していただき、システムの概略及び体力測定の内容・方法についての説明を行っている。
 そのうえで、指導者・選手の意向、競技種目に要求される体力の特性等を考慮し、指導者と十分に協議を行い、実施する体力測定の内容・項目を最終決定するようにしている。

(2)第2過程:当日

 第2過程は、当体育館スポーツ科学管理棟内において、1日日程で実施する。
 実施内容は、「スポーツドクターによるメディカルチェック」、「管理栄養士による食生活診断カウンセリング」、「形態・身体組成測定」、「体力測定」の4つの分野にわたる。
 測定したデータについては、できるだけその場で選手に提示・説明しながら、即時に還元するように努めている。
 また、測定の合間の休息時間には、できる限り対話の機会を設けるようにし、選手の心身の状態や選手を取り巻く環境など、データには表れてこない部分を含めて、総合的な理解に努めている。

(3)第3過程:事後報告

 第3過程は、後日の診断結果の報告である。
 「メディカルチェック」及び「食生活診断」の分野に関しては、選手と指導者に対して、最終報告書を送付している。
 できるだけ早く現場での実践に活用できるようにするため、報告資料は、2週間以内に還元することを当面の課題としている。
 「形態・身体組成」、「体力」の分野に関しては、必要に応じて団体所在地への出張報告を行うシステムを導入している。
 選手と指導者に対して、測定結果一覧表とともに、個人別体力プロフィール・診断書等の資料を提供し、体力に関する診断について説明を行う。さらに、改善を図る必要のある重点課題を明らかにし、今後のトレーニング実践についてアドバイスを行っている。
 また、要望に応じて、トレーニング実習も実施している。こうした報告は、選手・指導者が日頃のトレーニング実践にできるだけ早く活用できるようにするため、1週間以内にフィードバックするように努めている。
 このように、第3過程においては、現場での実践への活用を目指して、各専門的立場から、スポーツ選手の能力を最大限に発揮しうるトレーニング・コンディショニングに関する情報を提供している。
4.体力測定の実施内容・項目

 「形態・身体組成」「体力」について、測定を実施している主な項目・内容は、 以下のとおりである。

  1.形態・身体組成
    1)身長・体重
    2)皮下脂肪厚(キャリパー・超音波皮下脂肪厚計)
    3)除脂肪体重・体脂肪量・体脂肪率

  2.瞬発力A(7秒間全力脚ペタリングにおける発揮パワー)
    1)各設定負荷に対する最高回転速度
    2)最大無酸素パワー(絶対値・体重あたり値)

  3.瞬発力B(規定動作による垂直方向への跳躍高・作用時間・パワー)
    1)自由動作(腕振り動作と反動動作を用いた跳躍)
    2)規定動作1(手を腰に当て、脚の反動のみを用いた跳躍)
    3)規定動作2(手を腰に当て、ハーフスクワットの姿勢から脚の反動を
     用いない跳躍)
    4)規定動作3(手を腰に当て、足関節を中心とした連続跳躍・ホッピング)

  4.筋持久力A(40秒間連続脚ペタリングにおける発揮パワー)
    1)設定負荷に対する回転速度(5秒毎の経過)
    2)平均発揮パワー(絶対値・体重あたり値)
    3)血中乳酸値(安静時・終了5分後・終了30分後)

  5.筋持久力B(5秒間脚ペタリング・インターバル方式における発揮パワー)
    1)最高回転速度・発揮パワー(1回目~8回目)
    2)平均発揮パワー(絶対値・体重あたり値)
    3)血中乳酸値(安静時・終了5分後・終了30分後)

  6.等速性筋力(脚筋力:膝関節の伸展・屈曲動作における発揮筋力)
    1)最大発揮筋力(絶対値・体重あたり値:左右)
    2)筋力バランス(屈曲・伸展バランス:左右)
    3)筋力バランス(左右バランス:屈曲・伸展)

  7.等速性筋力(体幹筋力:股関節の伸展・屈曲動作における発揮筋力)
    1)最大発揮筋力(絶対値・体重あたり値)
    2)筋力バランス(屈曲・伸展バランス)

  8.全身持久力(走運動負荷漸増法による酸素摂取能力)
    1)最大酸素摂取量(絶対値・体重あたり値)
    2)走行継続時間
    3)肺換気量
    4)呼吸商
    5)最高心拍数
    6)血中乳酸値(走行終了5分後)

  9.反応速度(音刺激・光刺激に対する全身反応時間)
5.システム・データの活用

 「スポーツ選手の体力総合診断」の中心となる「体力測定・診断」においては、3種類のエネルギー供給機構により分類されるスポーツ選手の体力要素(瞬発力、筋持久力、全身持久力、筋力)について、身体のパワー発揮能力を調べることによって、体力を客観的に評価している。
 ところで、こうした体力測定は、スポーツ競技力の向上を目指す過程で、どのような役割を果たすのだろうか。また、体力に関するデータは、どのような活用ができるのだろうか。
 まず、さまざまな測定データを基に、各体力要素について、選手が備えている体力の特性を明らかにすることができる。
 このことは、選手の持ち味を最大限に活かすための競技種目や競技スタイルなどを検討するうえで、重要な手がかりとなる。また、将来、到達できるであろう競技成績を推測するのにも役に立つ。さらに、競技種目の特性や目標とする競技レベルに応じて、必要と考えられる体力の目標値を具体的に設定することができる。
 スポーツ競技選手にとって、体力を正確に把握することは、競技力の向上を目指した今後のトレーニング実践について検討するうえで、重要な意味を持つ。つまり、どの体力要素に重点を置いて、強化していく必要があるのか。どのような方針で、トレーニングを計画していけばよいのか。さらには、どのような内容・方法によって、トレーニングを実践していけばよいのか。このような問題・課題に対して、解決に向けてのより確かな道筋を導き出すことができる。
 このように、体力の現状を正確に把握することによって、選手の体力の現状や特性に応じた、より効果的なトレーニングを創造し、構築することが可能になると考えられる。また、トレーニングを積み重ねていく過程で、体力測定を継続的・定期的に実施することによって、体力要素の変化・推移を点検し、トレーニングによる改善効果を確認することができる。このことは、実践してきたトレーニングの有効性について検討するうえでも、重要な意味を持つ。
 さらに、以後のトレーニングの方向性を再検討し、必要に応じて、軌道修正を加えることも可能となるのである。
 蓄積された豊富なデータは、さまざまな角度から整理・分析される。このことによって、スポーツ競技種目の特性とともに、競技レベルに応じた達成目標値は、次第により明確なものとなっていく。
 こうして、後に続くスポーツ選手と指導者に対して、競技力向上を目指すうえでの有効な指標を与え、さまざまな角度から、競技力向上を支援していくことが期待できるのである。


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