麦すぼ巻
麦すぼ巻 信じる美味しさのために原点を守り続ける

 その昔、平戸の地で、農村の人々が畑仕事で汚れた手でも食べられるようにと、かまぼこに麦わらを巻いたことから生まれたという「すぼ巻」。しかし機械化が進むにつれて、麦わらはストローへとその座を奪われてしまう。そんな中、平戸には今でも昔ながらの麦わらで包んだ「麦すぼ巻」を作り続けている店が1軒だけある。
「平戸蒲鉾本舗(ひらどかまぼこほんぽ)」の金子久美子(かねこくみこ)さんはこう語る。「麦わらはストローの10倍の値段がします。それに1本1本手で巻くため、大量生産はできません。それでも麦わらを使うのは風味を守りたいからです」。
小さな工房では毎朝6時前から作業が始まる。平戸産の釜(かま)炊き塩を使ったすり身の調合はその日の天気や魚の状態によって異なるため、経験が物をいう。麦わらで巻いたすり身は熟成させるため、一晩じっくり寝かせる。その後、蒸すもしくは焼く。焼くことができるのも麦わらだからこそである。
平戸でしか買えない麦すぼ巻は、魚の風味が豊かで素朴な味わい。金子さんは「今の時代、変えないことが難しい」という。それでも「ストローに変える気はありませんね」と笑った。

麦すぼ巻

平戸蒲鉾本舗で販売しているのは「あじ」「あご」「焼きあご」の3種類。まずはそのままで。麦わらを巻いたままレンジで温めると、風味が増し、出来立てのような味わいを楽しめる。3本850円。

平戸蒲鉾本舗
平戸市浦の町752-1 TEL:0950-22-5319
魚醤油 魚から生まれた平戸らしい味わい

 平戸島の北端にそびえる白岳(しらたけ)。その麓(ふもと)に静かに佇(たたず)む長田食品(ながたしょくひん)。こちらで作られているのは、魚を使った醤油(しょうゆ)である。
 元々はダシパックを製造販売する会社だったが、ダシではどうしても魚のカルシウムが逃げてしまう。どうにかして魚からカルシウムを抽出できないものか——。食育に関心をもっていた長田政俊(ながたまさとし)さんは、様々な方法を試した結果、醤油を作ることを思い立ち、2年の歳月をかけて商品化した。大豆はもちろん保存料、添加物、化学調味料、砂糖を一切使わずに完成させた醤油は、従来の魚醤油(さかなしょうゆ)とは全く異なるまろやかな味わいが特徴。
 長田さんは一定の味を保つためにも一樽(たる)一樽ごとの癖(くせ)を見極めること、また、醤油はもろみを混ぜる頻度で美味(おい)しさが決まることから、なるべく手を掛けることが大切だという。夢は10年熟成ものを世に出すこと。長田さんの挑戦はこれからも続いてゆく。

魚醤油

鰹、鰯、昆布のみから生まれた「平戸魚醤油」。刺身醤油として使うのがおすすめで、独特の旨味が魚の味を引き立てる。あご醤油や鯛醤油などもあり。150ml 1本840円。

長田食品
平戸市大久保町326-105 TEL:0950-22-5544
酒 伝統を守り、工夫を凝らす

 明治28年創業の森酒造場(もりしゅぞうじょう)では、創業当時より116年に渡って最教寺(さいきょうじ)の麓(ふもと)から湧(わ)き出る名水を使って酒造りを続けている。芳醇(ほうじゅん)な香りが広がる酒蔵を見学させてもらった後は、お楽しみの試飲タイム。4代目の森幸雄(もりゆきお)さんは、若者の日本酒離れを食い止めたい、日本酒が苦手な人にも飲んでもらいたいという気持ちから、20年ほど前から新商品の開発にも力を入れている。「夢名酒(むめいしゅ)」もその1つ。酸味と甘みのバランスを調整することで生まれるという白ワインのような味わいに老舗(しにせ)の底力を見た。

酒

地元で愛され続けている「豊年(ほうねん)」は熱燗がおすすめ。
720ml 800円。純米酒「夢名酒」は500ml 800円。

森酒造場
平戸市新町31-2 TEL:0950-23-3131
お茶 発祥の地には達人がいる

 平戸はお茶発祥の地である。発祥の地にふさわしいお茶を作ろうと平成元年に生まれたのが「ひらどみどり」というブレンド茶。仕掛け人は、平戸有香製茶(ひらどゆうこうせいちゃ)の有浦奨(ありうらすすむ)さんだ。有浦さんは客からの信頼が厚い。それは新鮮な茶葉を目の前で量り売りするだけでなく、試飲はもちろんのこと、客に茶葉を食べてもらい、その甘さを確認してもらって初めて販売するという姿勢を貫いているからだ。時間がある人には美味しいお茶の淹(い)れ方も伝授している。「お茶は人の心を豊かにしてくれます」と有浦さん。発祥の地の宝を守り続けている。

お茶

有浦奨さんは「日本茶アドバイザー」「茶育指導士」の資格を持つお茶の達人。そのぎ茶に深蒸し茶をブレンドした「ひらどみどり」。
「平戸の露」は90g840円、「飛鸞」は90g1,050円。

平戸有香製茶
平戸市宮の町643-1 TEL:0950-22-2470
毎月第四日曜日は、心の扉を開く日

 毎月第4日曜日、上神崎(かみこうざき)教会で信者の方たちによる手作りのカフェが開かれると聞き、お邪魔した。
 朝9時半、教会横の建物。きれいにセッティングされたテーブルには、手作りの焼きたてパンやケーキ、サラダ、飲み物などが用意されている。ミサを終えた信者の方々は、それらをいただきながら、それぞれに会話を楽しんでいた。
 「まりあキッチン」と名付けられたこのカフェは、1昨年の夏、3人の女性の発案によってスタートした。その中の1人長田春子(ながたはるこ)さんはこう話す。「私たちがまだ幼くて、歩いて通っていた頃は、教会はコミュニケーションの場でした。それが車社会になって、ミサが終わるとすぐに皆帰ってしまう。つながりが希薄になったように思い、そうしたつながりを取り戻したい、その想いが出発点でした」。3人の願いは通じた。今では多くの信者の皆さんが手伝いを申し出るようになり、地元の人や観光客までもが足を運ぶようになったのである。ここでみんなと会うのが楽しみだと話す年配の女性は「第4日曜日は心を打ち明けられる日なんですよ」と笑顔を見せた。
 カフェは誰でも無料だ。設置された籠(かご)の中へ皆、思い思いの金額を募金する。そのとき人々は感謝の想いを胸に頭(こうべ)を垂れる。長田さんは「多くの人に支えられて今があります」と語る。感謝の連鎖がいつまでも続くようにと願った。


 

 

ここまでがこのページの情報です。