酸性雨の定義
工場や自動車の排気ガスなどのなかには硫黄酸化物や窒素酸化物などの大気汚染物質が存在します。これらの物質は大気中で酸化されることにより「硫酸(H2SO4)」や「硝酸(HNO3)」などの酸に変化します。
これらが雨に溶け込んで地上に降ってきます。このように、雨が酸性化して雨水のpHが5.6以下の雨を「酸性雨」といいます。
酸性雨とpH
酸性雨調査におけるpHの測定は、酸性雨現象解明のための出発点であり、また基本の一つでもあります。では、pHとは一体何なのでしょうか?pHとは水素イオン濃度の表記法の一つであり、以下の数式で表されます。
pH=−log[H+]
[H+]=水素イオン濃度(mol/L)
log=対数
すなわち、雨水に溶け込んでいる水素イオンの濃度が、10の何乗分の1であるかを「pH」といい、pH=7であれば中性で、蒸留水などがそうです。7を超える場合がアルカリ性で、海水(pH=8.2)粉石けん水(pH=10.0)などが、アルカリ性です。そして、7未満を酸性といい、レモン汁(pH=2.6)やスポーツドリンク(pH=3.6)、酸性雨(長崎県ではpH4.6〜4.8程度)などが酸性です。
酸性雨発生のメカニズム
酸性雨発生のメカニズムについては、定義のところでも少しふれましたが、ここでは、もう少し詳しく説明したいと思います。
酸性雨は世界で最初に産業革命がおこった19世紀のイギリスで観測され始めました。工業化や自動車に輸送を頼るようになると、それに伴って硫黄酸化物(SO2)や窒素酸化物(Nox)が排気ガスとして大気中に放出されるようになります。また、火山などの噴火に伴って排出される火山性ガスのなかにもこれらは含まれています。
大気中に放出された硫黄酸化物や窒素酸化物は酸化されて硫酸や硝酸に変化します。それらが雨に溶け込むことで、雨水が酸性化して酸性雨をもたらします。主な原因物質は硫黄酸化物や窒素酸化物ですが他にも、非メタン炭化水素、メタン、アンモニア、一酸化炭素(CO)、塩化水素なども対象物質です。
我が国では、硫黄酸化物は発電所や大規模工場からの排出が多かったのですが、大規模な発生源での脱硫処理(硫黄分を外に出さないようにするための処理装置の普及)の結果、中小規模工場の寄与が相対的に多くなっています。
窒素酸化物は普通貨物車、船舶等のディーゼル機関から排出され、非メタン炭化水素は石油系の溶剤やガソリンからの蒸発、石油の軽質留分(原油から石油を精製する際に出てくる分子量の小さい蒸留成分をいう)に起因する排出が多く、一酸化炭素は自動車からの排出が主な原因となっています。
酸性雨による環境への影響
(1) 人体や生物への影響
酸性雨は我々人間や地球にすむ生物にどの様な影響を与えているのでしょうか?1970年頃のスウェーデンのとある農村で、金髪の髪の毛が緑色に変わるという出来事が人々を驚かせました。原因を調べてみると、酸性雨が地下水にしみこんで地下水を酸性化し、水道管が銅製であったため、溶け出した銅の化合物が洗髪の際に髪の毛を緑色に変えてしまうというものでした。
また、髪を緑色に変えてしまうほどの水道水を飲んだ人たちのなかには、下痢などの症状を訴えた人もいたそうです。北欧や北米では、湖や河川が酸性化することによって、サケ科の魚が川に戻ってきても産卵しなかったり、産卵しても卵が孵化しなくなっています。また、ルアーフィッシングのターゲットとして人気の高いブラックバスやマスなどの魚が湖から姿を消しています。日本でもサケ科の魚であるヒメマスを使って酸性化した河川に対しての反応を見たところ、pHが7から6に変わっただけで、産卵を止めてしまったという報告があります。
森の木々はどうでしょうか?
森は私たちが生きていくために必要不可欠である酸素を供給してくれるだけでなく、大地に広く根をおろすことで、水を蓄える。土砂崩れを防ぐ。動物たちのすみかになる等、森が果たす役割は数えきれないほどあります。この森にもヨーロッパなどでは酸性雨による立ち枯れなどの被害が出ています。
立ち枯れの原因は2つの場合があります。
一つは、酸性雨自体が植物に直接ふれることで葉が犯され、枝や幹が痛めつけられる場合。この場合、杉などの針葉樹林が大きな被害をうけます。針葉樹は一年中葉をつけているため、植物が呼吸するための気孔が痛めつけられるからです。
もう一つは、酸性雨が土壌を変化させることで植物の生育を妨げている場合です。こちらのほうが前者よりも深刻で、土壌の質が酸性化すると、土中の微生物や土の中の農夫と呼ばれるミミズなどが生存できなくなってしまいます。
微生物は腐葉土を分解して樹木の栄養分を作っていますし、ミミズの糞はカルシウムを多く含み、酸化した土壌を中和しています。
これらの生物がいなくなってしまうと、土壌の酸性化が進み、中和する能力が追いつかなくなって樹木の立ち枯れなどが起こります。
酸性化した土壌に石灰を散布し、土壌を 中和する努力もなされていますが、一度酸性化したものを元に戻すのは長い年月が必要で、これ以上被害を広げないことが大切です。
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(2)建造物や文化財への影響
建造物は様々な材料で出来ているので、全てが酸性雨の影響を受けているとは一概には言えませが、ヨーロッパに多く見られる大理石製や銅製の建物、歴史的文化遺産への影響は深刻なものになっています。
大理石は硫酸と化合すると石膏に変化するため、大変もろくなります。ギリシア彫刻などに代表されるものの多くは、大理石でできており、酸性雨によって顔がなくなったり、彫った文字がわからなくなったりしています。
また、先に述べた"緑色の髪"の水道管のように、銅像が腐食しています。近年、公園や駅のロータリーで見かけるブロンズ彫刻などにも影響がでています。
ヨーロッパではこのような被害が各地で起こっています。
こうした物言わぬ建造物や文化財は、私たちが見守って後世に残していく努力が必要ではないでしょうか。
参考文献〉
1)環境問題最前線,東洋館出版社,2001.6.10
2)みんなの地球-環境問題がよくわかる本-(改訂増補版)オーム社,2001.2.20
3)酸性雨-地球環境の行方-,中央法規出版,1997.11.1
4)環境計測器ガイドブック第4版,公害対策技術同友会,1996.3.31
5)酸性雨と環境-私たちにできる防止対策-,(財)日本環境衛生センター酸性雨研究センター1999.3.26
6)大気環境調査結果(平成11年度),長崎県県民生活環境部環境保全課,2000.9 |