本作は、江戸中期に長崎で活躍した熊斐(ゆうひ)(1712~72)の作。滝を登ろうとして跳ねる2匹の鯉に満開の桃を添える。掛幅装(かけふくそう)。縦129.6cm、横53.1cm。
作者の熊斐は本姓を神代(くましろ)といい、長崎の唐通事である。当時長崎へ渡来した沈南蘋(しんなんぴん)(1682~?)らに学んだ。本作においては、細部まで丁寧に写し取った鯉の描写や、反復する波頭の形態、あるいは桃の花の精緻な彩色などに、南蘋の影響を見てとることができる。
熊斐をはじめとして舶来清人画家に学んだ長崎の絵師たちを長崎派と呼ぶが、その画風は上方から江戸へと伝播し、我が国の絵画史上に南蘋派(なんぴんは)を形成するに至る。各地に伝えられた南蘋の写実的画風は、18世紀後半の日本の画壇に多大な影響を及ぼし、画壇の旧風革新を促した。
このように本作は、南蘋に直接画を学び18世紀日本画壇の変革に大きな影響を与えた熊斐の代表的作例の一つであり、熊斐が受けた画系上の様々な影響を示す作品といえ、その価値は極めて高い。