平戸島の小河川沿いの谷部には、安満岳(やすまんだけ)を中心として防風石垣や石塀を備える春日、獅子(しし)、根獅子(ねしこ)、宝亀、田崎、神鳥(かんどり)、紐差(ひもさし)の集落や棚田が展開している。
これらの集落の多くは、16世紀半ばから17世紀初頭にかけて書かれたイエズス会宣教師の書簡において、教会や慈悲の組についての記述とともにその名を確認することができる。
現在も伝統的家屋の中に戦国から江戸時代初期のキリシタン信仰に起源を持つ納戸(なんど)神を祀るなどかくれキリシタンとしての営みを続け、安満岳や中江ノ島のような聖地とともに、殉教地を伴う独特の様相を現在に留めている。棚田群は、大きなものでは海岸から標高約200mの地点まで連続して築造されている。地元の礫岩を用いた石積みの中には、生月(いきつき)の技術者集団の手によるものも認められる。
このように、「平戸島の文化的景観」は、かくれキリシタンの伝統を引き継ぎつつ、島嶼の制約された条件の下で継続的に行われた開墾や伝統的な生活及び固有の生業等を通じて形成された棚田や人々の居住地によって構成される文化的景観である。
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